COVID-19の影響でAMRが増える?

米国CDC(疾病管理予防センター)の報告によると、COVID-19の感染が始まった2019年から2020年にかけて入院が原因での薬剤耐性(AMR: antimicrobial resistance)菌の感染と死亡例は、米国において少なくとも15%増加しました。
耐性菌については、7つの病原菌全体で入院中に発生した耐性菌の感染数が15%増加し、各細菌種の感染数ベースで数字を見ていくと、カルバペネム耐性のアシネトバクター 感染が 78% 増加し、多剤耐性緑膿菌感染が 32% 増加し、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE) 感染が 14% 増加し、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) 感染が13% 増加しました。抗真菌剤耐性菌についても増加がみられ、カンジダ・アウリス(Candida auris)では全体で60%の増加、カンジダ種(カンジダ・アウリスを除く)については病院内での感染数が26%増加しました。2019年のレポートでは2012年から2017年にかけて薬剤耐性菌感染症が27%減少しており、COVID-19のパンデミックが始まるまでは減少が続いていました。一方でクロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)は、医療関連の病原菌として唯一、2020年に改善がみられた種で、これは医療を求める行動の変化が一因となっている可能性があります。

CDCのデータによると、アメリカの病院において、抗菌薬使用量の大幅な増加がみられています。このことは、感染症の予防と制御のガイドラインに従うことが難しくなっていることを示唆しています。パンデミックの期間においては、個人用防護具(ガウン、手袋、マスクなどの感染症から身を守る器具)の供給不足、人手不足、長期の入院患者に対応する必要がありました。こういったことが要因となり、医療関連の耐性菌感染症が増加したと考えられます。

2019年から2020年にかけて、29,400人以上の人が医療関連の耐性菌によって亡くなっていると推定されています。そのうちおよそ40%は入院中に感染しています。しかし実際の米国全土の耐性菌による死者数は、これよりはるかに大きいと考えられています。

耐性菌の封じ込めにおける歴史的な進歩も、COVID-19のパンデミックにより覆ってしまいました。肺炎に似た発熱や息切れの症状に対して抗菌薬が第一の選択薬剤として採用されることが頻繁にありましたが、こういった症状はCOVID-19に感染した際にもみられるものであり、仮にCOVID-19への感染であった際には、抗菌薬の処方は効果がありません。2020年3月から2020年10月にかけて、COVID-19の感染によって米国の病院に入院した患者のうち約80%が抗菌薬の処方を受けたと報告されています。こうした抗菌薬の処方は、症状の原因が分かっていない段階では有効な手段である一方で、耐性菌の発生と伝播を増加させる負の側面があります。

このようにCOVID-19のパンデミックにより抗菌薬の使用が大幅に増加したこと、感染予防と管理のガイドラインを順守することが難しくなったことから、結果として医療関連の薬剤耐性菌感染症の増加がみられたと考えられます。

■引用
COVID-19 Reverses Progress in Fight Against Antimicrobial Resistance in U.S. | CDC Online Newsroom