東京大学大学院農学生命科学研究科との共同研究成果:米国微生物学会誌『mBio』に掲載 ~AIモニター技術(Bacterial Growth Monitor) ~

― 目視では捉えきれない微生物の生存戦略の切り替えを、AI時代のモニター技術(Bacterial Growth Monitor)で可視化 ―

カーブジェン株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役:中島 正和、以下「当社」)と東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 醗酵学研究室(主宰:大西 康夫 教授)は、両者の共同研究の成果が、米国微生物学会(American Society for Microbiology, ASM)が発行する査読付き国際学術誌「mBio」に掲載されたことをお知らせいたします。

本研究は、希少放線菌 Actinoplanes missouriensis(アクチノプラネス・ミズーリエンシス)における「生息領域の急速な拡大(エクスプロレーション)」と「胞子嚢(ほうしのう)形成による休眠」という、まったく異なる生存戦略の切り替えを制御する分子機構を解明したものです。当社が提供する細菌増殖モニター(非医療機器)Bacterial Growth Monitor(以下「BGM」)を用いた、固体培地上のコロニー増殖動態の経時的・定量的な可視化が、本成果の重要な実証基盤となりました。

研究内容のさらに詳細な解説については、東京大学大学院農学生命科学研究科の研究紹介ページをあわせてご参照ください。

東京大学大学院農学生命科学研究科 研究成果ページ:
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20260519-1.html

1. 研究の背景と経緯:未知の増殖モードへの遭遇

(1) 希少放線菌の生存戦略

希少放線菌 Actinoplanes missouriensis は、栄養豊富な環境では分岐した菌糸を伸ばして増殖する一方、貧栄養な環境では100〜200個の胞子を内包する「胞子嚢」を形成し、休眠・拡散に備える、極めて高度な形態分化能を有する細菌です。胞子嚢形成の制御機構の解明は微生物学における長年の課題でした。

本共同研究の過程で、特定の酵素(ソルターゼ SrtE)を欠損させると、菌糸生長の性質が劇的に変化し、コロニーが異常な速さで拡大する現象が観察されました。

図1 希少放線菌 Actinoplanes missouriensis の生活環(画像提供:東京大学大学院農学生命科学研究科)

(2)「エクスプロレーション」の疑い

この急速なコロニー拡大は、近年 Streptomyces 属で報告された「エクスプロレーション(探索的増殖)」と呼ばれる現象に酷似していました。エクスプロレーションは、栄養菌糸が固体培地上で急速にコロニーを拡大する増殖様式ですが、属を超えた普遍性や分子機構の理解は限定的であり、本現象を確認するためには、数日にわたるコロニーの拡大プロセスを連続的かつ定量的に捉える必要がありました。

(3) BGMの導入

従来の点的な写真撮影や目視観察では、コロニー拡大の「速度」や「密度の変化」を正確に評価することが困難でした。そこで、当社が提供するBGMを用いることで、数時間にわたる微細な変化を自動で追跡し、科学的データとして可視化することを目指しました。BGMは、独自の2次元TFTセンサーとAI画像解析を組み合わせ、寒天培地上の透過光強度から光学密度(OD)を算出する仕組みを採用しており、5分ごとに1000×1000画素の解像度で計測することで、固体培地上の微生物増殖を経時的・定量的に可視化することを可能にしています。

2. 研究の成果:BGMが解明した「見えない」増殖動態

(1) 時間軸での定量的証明(BGMの寄与①)

BGMによるタイムラプス解析により、野生株に比べ、srtE 変異株が培地上を圧倒的なスピード(数日で約7倍の面積)で広がる様子を完全に記録できました。これにより、特定のタンパク質(CwpAおよびCwpB)が細胞壁に固定されないことで、菌が「胞子嚢形成(定着)」から「エクスプロレーション(拡大)」へと生存戦略を切り替えることが分かりました。

図2 固体培地上に形成されたコロニーの比較。左:野生株、右:srtE 破壊株。スケールバーは1cm(画像提供:東京大学大学院農学生命科学研究科)

(2) コロニーの「質」の変化を数値化(BGMの寄与②)

単なる面積拡大だけでなく、BGMはコロニーの透過度(密度)の変化も捉えました。エクスプロレーション中の菌糸は、密度を低く保ちながら遠方へ伸びるという、「薄く、広く」広がる独自の生存戦略をとっていることを可視化しました。

(3) 物理的な表面構造の解析

拡大に伴うコロニー表面の独特な「しわ」や「たわみ」をBGMで詳細に追跡しました。これが細胞表層の疎水性の変化(物理的性質の変化)に起因することを裏付ける重要な知見となりました。本研究で同定されたソルターゼ酵素 SrtE と、その作用によって細胞表層に局在する2つの疎水性タンパク質 CwpA・CwpB は、貧栄養条件下では「胞子嚢形成の開始」を誘導する一方、栄養豊富な条件下では「エクスプロレーションを抑制」するという、二面的な制御役割を担うことが明らかになりました。

図3 ソルターゼと細胞表層タンパク質を介した増殖様式・形態分化の制御モデル(画像提供:東京大学大学院農学生命科学研究科)

3. 本研究の意義と今後の展望:微生物学への新アプローチ

(1) 放線菌の普遍的な生存メカニズムの発見

属を超えて保存された「エクスプロレーション」の仕組みを、BGMという最新のモニター技術で観測したことで、菌糸生長による生息領域の拡大と、胞子嚢形成による休眠という対照的な生存戦略の切り替えに、細胞表層の疎水性制御が関与していることを明らかにしました。本成果は、微生物学における重要なマイルストーンの一つと位置付けられます。

(2) デジタル・マイクロバイオロジーの推進

熟練者の目視に頼っていたコロニー観察を、BGMによる「連続的な数値データ」へと変換した本手法は、今後の微生物研究におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の先駆的な事例となります。AIと光学計測を組み合わせたデジタル・マイクロバイオロジーの実装事例として、今後の研究開発・産業応用の双方で大きな波及効果が期待されます。

(3) 産業・環境への応用

菌糸の拡大を人為的に制御できれば、有用物質を生産する放線菌の培養効率の飛躍的向上や、土壌中での微生物の広がりをコントロールする新しい技術開発につながります。具体的には、新規抗生物質・新規微生物の探索(バクテリオファージや低分子化合物のスクリーニングを含む)、実験進化(Experimental Evolution)による有用菌株の創生、持続生残細菌(パーシスター)のメカニズム解析など、微生物研究の幅広い領域での応用が見込まれます。

当社は今後も、国内外のアカデミアおよび産業界とのオープンイノベーションを通じて、ライフサイエンス領域における産官学共創型のDX・AIソリューションの開発と社会実装を推進してまいります。

4. 論文情報

雑誌名mBio(American Society for Microbiology発行)
論文タイトルClass E sortase SrtE and two SrtE-dependent cell wall-anchored hydrophobic proteins are involved in morphogenesis in Actinoplanes missouriensis: occurrence of exploratory growth beyond genus Streptomyces
著者Zhuwen Tan, Kazuki Nosho, Kyohei Umebayashi, Kenji Akamatsu, Reiichi Ariizumi, Takeaki Tezuka*, Yasuo Ohnishi*(*共同責任著者)
DOI10.1128/mbio.03944-25
公開日2026年5月18日
研究助成日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号:JP24H00500、JP18H02122、JP17K07711、JP20K05781、JP19H05685)

5. 当社の関連製品・サービス

微生物増殖解析サービス BGMソリューション(細菌増殖モニター(非医療機器)Bacterial Growth Monitor) (製品ページへ)

サービス名微生物増殖解析サービス BGMソリューション
製品名細菌増殖モニター(非医療機器)Bacterial Growth Monitor
製品分類研究用途(Research Use Only)/非医療機器
提供形態装置貸与+当社解析チームによる解析サポート
製品ページhttps://carbgem.com/product/bacteria-growth-monitor-ie/

当社と東京大学による共同研究の開始については、2025年1月28日付プレスリリース「カーブジェン、東京大学と共同研究を実施」(https://carbgem.com/product-news/p-20250128-bgm/)にてお知らせしております。本論文は、当該共同研究の成果として発表されたものです。

6. 東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 醗酵学研究室について

名称東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 醗酵学研究室
主宰教授 大西 康夫
所在地東京都文京区弥生1-1-1
研究分野放線菌の形態分化の分子機構、二次代謝産物の生合成、微生物機能開発
研究室サイトhttps://www.hakko.bt.a.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 醗酵学研究室(主宰:大西 康夫 教授)は、希少放線菌における形態分化の分子機構について長年にわたり研究を続けてきた、当該分野における国内有数の研究室です。これまでに以下のような研究成果を発表しています。

・注目を集める希少放線菌の不思議に迫る研究:遊走子線毛の発見と機能解明(2019年)

・細菌胞子の休眠と覚醒の制御に関する新たな知見(2023年)

・細菌べん毛の回転を停止させる新規タンパク質の発見(2024年)

・細菌胞子嚢の開裂時に胞子嚢マトリクス成分を分解する多糖加水分解酵素の発見(2025年)

・細菌のべん毛形成を制御するユニークな分子機構の発見(2026年4月)

7. カーブジェン株式会社について

会社名カーブジェン株式会社(英語:CarbGeM Inc.)
代表者代表取締役 中島 正和
本社所在地東京都渋谷区神南一丁目5番13号
設立2021年3月
事業内容AIとバイオテクノロジーを活用したライフサイエンス分野向けソリューションの開発・提供
公式サイトhttps://carbgem.com/

2026年2月にはインド政府主催「AI Impact Summit 2026 – 世界TOP10」に選出されたほか、東京都主催「Tokyo Social Innovation Tech Award 2024」、第38回 中小企業優秀新技術・新製品賞ソフトウエア部門「優秀賞」を受賞するなど、国内外で数々のアワードを受賞。産官学との連携によるオープンイノベーションを通じて、未来の地域・医療・研究の共創にも力を注いでいます。