中枢神経系と細菌感染症

1.はじめに

中枢神経系は様々な細菌、真菌、ウイルス、原虫や蠕虫による感染症をおこします。また同時に癌などの悪性腫瘍や自己免疫疾患をはじめ、非常に似通った臨床症状をきたす疾患があり、これらとの鑑別が常に求められます。これらの鑑別診断の流れは他に譲り、細菌性感染症のうち代表的な急性髄膜炎の症状や診断、治療の方針について整理します。

2. 感染症による急性髄膜炎の原因微生物

髄膜炎は文字通り髄膜の炎症をきたす疾患です。急性髄膜炎は数時間から数日以内に進行する”急性”の髄膜炎です。急速に炎症が進行するため頭痛と発熱が初期から認められることが一般的です。さらに進行すると意識障害などの高次脳機能障害を来します。いわゆる髄膜刺激症状と呼ばれる頭痛や嘔吐、身体所見におけるケルニッヒ兆候、ブルジンスキー兆候や後部硬直などが認められることが髄膜炎の特徴でもあります。この状態が数週間から数か月にかけて完成されていくものを慢性髄膜炎と呼びます。急性髄膜炎と慢性髄膜炎にはっきりとした区切りや定義はありませんが、結核菌やクリプトコッカス属は時に慢性髄膜炎の経過をとることが知られています。

急性髄膜炎を起こす病原微生物としてはウイルスではエンテロウイルス、ヘルペスウイルス科やヒト免疫不全ウイルスが代表的です。細菌では各種リケッチア、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌b (Hib)、髄膜炎菌などに加え、新生児のB群溶血性連鎖球菌や妊婦・新生児で問題となるListeria monocytogenes(リステリア)などが代表的です。16歳未満の小児においては結合型肺炎球菌ワクチンとHibワクチンの導入により日本においてこれらによる細菌性髄膜炎は激減しています。それ以上の成人では肺炎球菌、リステリアなどが主になります。それ以外でも脳外科手術にともなう細菌性髄膜炎では黄色ブドウ球菌やグラム陰性桿菌、なかでも緑膿菌なども原因となります。また原虫性髄膜炎ではNaegleria fowleri、Acanthamoeba属, Balamuthia mandrillarisなどが稀ですが、原因微生物となります。蠕虫性髄膜炎としてはAngiostrongylus cantonensis(広東住血線虫症)、Gnathostomiasis(顎口虫症)などが日本国内では原因微生物となります。他に稀ではありますが、Treponema pallidumも急性髄膜炎をおこします。

3.急性髄膜炎の診断[ⅰ]

前述したように髄膜刺激症状と発熱がある場合は、急性髄膜炎を1度は疑うべきでしょう。疑った以上、髄液穿刺を行い、可能性を除外したいところです。特に細菌性髄膜炎は治療開始が遅れると死亡率および重篤な後遺症につながります。しかし、頭蓋内圧が亢進している症例では髄液穿刺により脳組織が頭蓋骨外にはみ出していく致死的な脳ヘルニアを起こしてしまうリスクがあります。脳圧亢進がないことを素早く確認するにはCTが最も有用です。ではどのような症例で髄液穿刺の前にCTを撮影する必要があるでしょうか。後ろ向き研究では1:60歳以上、2:免疫不全を疑う場合(HIV感染やステロイドや抗TNFα薬を服用中)、3:中枢神経疾患の既往歴、4:1週間以内の痙攣の既往、5:意識状態の悪化、従命不良、動眼神経麻痺、顔面神経麻痺、視野異常、上肢・下肢の偏位、言語障害、などの所見などがあれば、脳ヘルニアのリスクが高くなるためCTでスクリーニングすることが望ましいとされています。

(出典:細菌性髄膜炎の診療ガイドライン2014 監修・日本神経治療学会 日本神経学会 日本神経感染症学会)

4.急性髄膜炎の治療[ⅰ]

急性細菌性髄膜炎の治療の基本は抗菌薬です。肺炎球菌性髄膜炎では過剰な炎症を抑えるために抗菌薬投与前にステロイドを投与することで生存率が改善します。一方、理論的にはステロイドの使用は結核性髄膜炎の悪化などの懸念もあります。しかし、多くの急性細菌性髄膜炎の原因細菌では悪化しないことから急性髄膜炎で細菌感染症を疑う場合にはステロイドを投与することが一般的です。

髄膜炎と判断できれば、速やかにステロイド(抗菌薬投与の直前)と抗菌薬を投与します。(その後、必要に応じて抗菌薬はDe-escalationします。)髄液穿刺が行えた場合、少なくとも細菌のグラム染色・抗酸菌染色、細菌培養・抗酸菌培養・真菌培養の各培養、結核核酸増幅検査、クリプトコッカス抗原などの微生物検査を提出するべきです。もちろん、髄液の一般検査(初圧、細胞数)、生化学検査(髄液糖(血糖も)、タンパク質)、病理検査(髄液細胞診)も必須でしょう。特にグラム染色が可能であり、細菌を認めた場合はグラム染色等の検査により、グラム陽性/陰性、球菌/桿菌を判別し、4分類をもとに適正な抗菌薬を選択します。

主に検出される細菌種

  • グラム陽性球菌(非医療関連:肺炎球菌、医療行為関連:黄色ブドウ球菌)
  • グラム陰性球菌(髄膜炎菌)
  • グラム陽性桿菌(リステリア菌)
  • グラム陰性桿菌(インフルエンザ桿菌、医療行為関連:緑膿菌、腸内細菌科)

など、グラム染色の情報があると髄膜炎の場合は原因微生物に肉薄できます。初期の抗菌薬から予想がつけば、カバーしそこなうことも少なくなります。また治療後は培養結果に合わせてDe-escalationを行います。

[ⅰ]細菌性髄膜炎の診療ガイドライン2014 監修・日本神経治療学会 日本神経学会 日本神経感染症学会 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/zuimaku_2014.html