【KOLインタビュー】山本剛氏(大阪大学)〜微生物検査の観点から見た薬剤耐性(AMR)問題〜#3

(カーブジェン中島(以下、中島))これまではグラム染色道場の経緯 や微生物検査現場におけるリアルについてお話を伺いましたが、薬剤耐性(antimicrobial resistance : AMR)問題についてご意見を頂ければと思います。

隠れたパンデミックで、このままいくと2050年には年間死者数が1000万人になるということが言われていますが、微生物検査の観点でAMRに対して重要なこと等ございましたらご意見いただけますでしょうか。

右:山本剛氏 左:カーブジェンCEO中島

(山本)グラム染色を用いた感染症診療は、全国的に広まってきましたが、まだまだ十分ではないなと感じています。全国の医療機関のうち、病院が約8千施設で開業医が約10万あるため、割合としては後者が圧倒的に多いにもかかわらず、開業医にこのグラム染色が普及しないのが現状です。病院では実施されている施設も多いですが、開業医でグラム染色を使っている施設は少ないと思います。そのため開業医でもグラム染色を用いた感染症診療の裾野を広げていく必要があると思います。

(中島)開業医の方は、実施すべきと分かっているがやれていないのが現状だと思っています。それは染色が手間だからなのか、判読に自信がないから、など、どの部分がネックになっているのでしょうか。

(山本)医師はグラム染色の読影についてトレーニングを積む機会を多くすることが必要です。皆さんもちろんグラム染色を習ったことはあると思うのですが、実際に臨床現場で使うくらいに訓練もされていない方々も多くて仕方のないことだと思います。医学部の実習では、培地に黄色ブドウ球菌を塗抹して、翌日発育したコロニーを染色しブドウ球菌を確認する授業をしていると聞いています。そのため、臨床現場で利用されている、患者検体を染色することはありませんから、実践向きではありません。そこは、医学生に臨床微生物の授業をもう少し取り入れる必要があると思います。

(中島)教育の構造が変わるには時間がかかる難しいように感じますので、まずは今いる開業医の方なのかなと思っています。その場合、何がきっかけでグラム染色をより行うようになると思われますか。

(山本)御社がやっているような、簡単に染色できる、簡単に読影できるということはきっかけになると思います。染色する際にも、ウォーターレスの装置がいいと思います。グラム染色はシンクが汚れてしまうイメージがあるため、液体を使わないで完結できれば使いたいなと思うようになるのではないでしょうか。あとは保険点数も徐々に上がってきていることも追い風にはなる気はします。一時期は25点前後まで下がっていたのですが、現在(2022年6月時点)は臨床的意義が認められて62点までに上がっていますので、開業医の先生からするとインセンティブにはなるのかなと思います。一方で保険点数が上がると医療費が増えてしまうため、これ以上は上がらないかもしれませんが。

(中島)グラム染色をして早期に適切な抗菌薬を処方できると、確かに検査料が短期的には増えるかもしれないですが、結局治療効果が高まれば入院期間が短くなったりするなど、トータルで見た時の医療経済効果はあるように感じますし、当然AMR解決にも資すると思います。

(山本)その通りだと思います。例えばカルバペネム系抗菌薬の使用量が多い医療機関に私が赴任して行ったら使用量は減るとは思います。もちろん高次医療を行っている救急診療の多い病院であればカルバペネム系の処方が多いのは仕方ないですけどね。

(中島)救急の現場では人がいない、夜間だと環境が整っていないとグラム染色できないことがあるという声があると聞きました。

(山本)大阪大学医学部附属病院の高度救急救命センターでは、グラム染色に根付いた医療が提供できています。前任地の神戸市立医療センター中央市民病院でもそうでしたが、救急現場にグラム染色できるような環境が整っています。それは完全にグラム染色に基づいた感染症診療を実施できている施設と思います。

(中島)グラム染色をやるのが当然というような風習になればいいですよね。グラム染色をベースにしないと抗菌薬を出さないというようなのが当たり前になればと思います。

(山本)はい。診療の標準になればいいですよね。とりあえず抗菌薬を出したものの、培養しても細菌が確認できないことが多々あると思うのですが、まずは迅速にグラム染色することで抗菌薬の要否を決めることができるので、広まればいいなと思います。

(中島)おっしゃるような、開業医の方へ裾野を広げるという観点で、今後どういった技術の出現を期待していますか。

(山本)グラム染色像の自動判読の技術は期待したいところですが、特に救急医療で使えるといいですよね。

(中島)貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

■本連載は全3回です。

■第1回インタビュー(「グラム染色道場」を始めた経緯#1)はこちら

■第2回インタビュー(微生物検査現場におけるリアル#2)はこちら

プロフィール:山本 剛

大阪大学大学院医学系研究科変革的感染制御システム学寄附講座 寄附講座講師
大阪大学感染症教育研究拠点(CiDER) 大阪大学医学部附属病院感染制御部長


神戸大学大学院医学研究科前期課程修了(感染疫学・感染症分野専攻)。今までに神戸市立西神戸医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2021年2月現職。
臨床検査技師、認定臨床微生物検査技師/ICMT、保健学修士。ブログ「グラム染色道場」を2007年より主催し、その反響を受けこれまでに2冊を書籍化。
グラム染色が菌種はもとより、白血球や滲出物から病態を推測し、治療計画や治療経過などそこから得られる所見を感染症診療に活用することを紹介してきた。

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