【ホワイトペーパー/グラム染色】尿路感染症診断におけるグラム染色の有用性

尿グラム染色の特性

尿グラム染色検査は、即座に結果が判明するため医師が経験的に抗菌薬を選択する際の指針となります。特に中間尿での非遠心尿検体のグラム染色は簡単な方法で、スライドガラスに尿を塗布し、自然乾燥させた後、グラム染色を行い顕微鏡で観察します。陽性判定の基準はさまざまですが、細菌量が105 cfu/mL以上の場合の検出における感度は81〜97%と良好であると報告されています [1, 2]。

尿路感染症の原因菌とグラム染色の有用性

尿路感染症は基礎疾患のない若年女性に好発する単純性尿路感染症と、尿路もしくは全身性の基礎疾患を有する症例に発症する複雑性尿路感染症に分類されます。単純性尿路感染症の起炎菌はEscherichia coliが原因菌全体の約70%を占め,Proteus mirabilisKlebsiella pneumoniaeを加えたグラム陰性桿菌で約80-85%となります [3]。大多数を占めるEscherichia coliは抗菌薬の感受性が良好であり、経験的治療が可能です。しかし、閉経前女性でもグラム陽性球菌のStaphylococcus saprophyticusが17%程度みられるため、グラム染色・尿培養による治療選択が有用です [3]。また複雑性尿路感染症では原因菌はEscherichia colKlebsiella 属,Citrobacter 属,Enterobacter 属,Serratia 属,Proteus 属,Pseudomonas aeruginosa,グラム陽性球菌:Enterococcus 属,Staphylococcus 属など多岐にわたります[3]。従って、初期の狭域抗菌薬の選択にグラム染色の結果が重要になってきます。このように、急性腎盂腎炎、複雑性尿路感染症など直ちに原因となる細菌の情報を得ることが重要である患者に対してはグラム染色の積極的に使用が推奨されます。

一方で、尿グラム染色の限界として、感度が低いことがあります。上述の通り、尿中の細菌量が105 cfu/mL以上の場合では陽性率が高いのですが、細菌量が102 〜103 cfu/mLの感染症では陽性と判定できないため、単独で尿路感染症の否定に使用することは推奨されません。このような限界はありますが、安価に短時間で菌種を推定することができるため、欠かせない検査と言えます。

参考文献

[1] Michael L. Wilson, Loretta Gaido, Laboratory Diagnosis of Urinary Tract Infections in Adult Patients, Clinical Infectious Diseases, Volume 38, Issue 8, 15 April 2004, Pages 1150–1158, https://doi.org/10.1086/383029

[2] Carroll KC,  Hale DC,  Von Boerum DH,  Reich GC,  Hamilton LT,  Matsen JM. Laboratory evaluation of urinary tract infections in an ambulatory clinic, Am J Clin Pathol, 1994, vol. 101 (pg. 100-3)

[3] 山本新吾ほか. JAID/JCS感染症治療ガイドライン2015-尿路感染症・男性性器感染症- 2016.

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