【ホワイトペーパー/SaMD】SaMDとは〜日本国内事例を交えて〜

1. はじめに

 近年、スマートフォンやスマートウォッチなどのデジタル機器が普及している中で、それらのデジタル機器を用いたデジタルヘルス分野が成長しています。また、新型コロナウイルス感染症拡大による公衆衛生の危機に直面したことで、社会のデジタル化がますます重要視され、官民を挙げた医療のデジタル化が推進されています[ⅰ]。

医療のデジタル化が広がる中で、SaMD(Software as a Medical Device)やその内のデジタル治療(DTx:Degital Therapeutics)に代表される、ソフトウェアを用いたデジタルツールは、患者一人一人に最適な医療を提供することを可能にし、治療効果の向上や医療プロセスの効率化に繋がる可能性があると期待されています[ⅰ]。特にDTxは一般の医薬品に比べ開発期間が短いため、早期に上市できる可能性もあります。

本記事では、デジタルツールの中でも医療機器として使用されているSaMDについて解説します。

[ⅰ]日本総研 経営コラム「医療のデジタル化におけるデジタルセラピューティクス(DTx)導入の推進に関する提言」

https://www.jri.co.jp/column/opinion/detail/12371/

2.  SaMDとは

 SaMDとは、Software as a Medical Deviceの略称で、「疾病の診断、治療、予防に寄与するなど、医療機器としての目的性を有しており、かつ、意図したとおりに機能しない場合に患者(又は使用者)の生命及び健康に影響を与えるおそれがあるプログラム」と定義されています[ⅱ]。SaMDはソフトウェアそのものであるため、デスクトップパソコンやスマートフォンなどのハードウェアにプログラムをインストールすることで、医療機器としての機能を持ちます。

 従来、医療現場において広く活用されてきた医療機器の一部を補助的に担うソフトウェアとは異なり、SaMDは単体で診断や治療、緩和などの役割を果たすことができます。また、SaMDの流通や販売を行う際には、エビデンスや薬事承認を必要とすることも大きな特徴です。

[ⅱ]厚生労働省医薬・生活衛生局 「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン」薬生機審発 0331 第1号,薬生監麻発 0331 第 15 号,令和3年3月31日

https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000764274.pdf

3.  SaMDの種類と事例

SaMDの利用目的は治療と診断の二つに分けることができます。また、AIの深層学習を活用した医療機器は、Healthtech DBによると、2022年12月時点で国内において計23件が承認されています。[ⅲ]

〈治療を目的としたSaMD〉

SaMDの中でも、疾患に対する治療を目的とするものを「DTx(Degital Therapeutics)」といいます。DTxは、医師の管理の下で患者が利用する「治療用アプリ」と呼ばれるものです。すでに国外で承認されているDTxの中には、生活習慣病や精神疾患を対象としているものが多くあります。

国内のDTxの例(2022年12月時点)として、2020年8月に薬事承認、同年12月に保険適用・処方開始された、ニコチン依存症治療を補助する治療用アプリ及びCOチェッカー「CureApp SC」(CureApp社)が挙げられます[ⅳ]。さらに最近では、同社の高血圧治療を補助する治療用アプリ「CureApp HT」が2022年4月に薬事承認、同年9月に保険適用・処方開始となりました。

他にも、アステラス製薬株式会社は、米Welldoc社と提携し、2010年に米国で承認された糖尿病治療用アプリ「BlueStar」(米Welldoc社)の日本国内での商業化を目指して2022年3月までに臨床試験を開始する方針を示しています[ⅴ]。

〈診断を目的としたSaMD〉 

 また、SaMDの中には原因疾患の診断を目的とするものもあります。日本国内の事例として、大腸ポリープの腫瘍・非腫瘍の確率を画像から診断する「内視鏡画像診断支援ソフトウエアEndoBRAIN」(サイバネットシステム社)が挙げられます[ⅵ]。これは国内で初めてAIを用いたSaMDとして、2018年12月に薬事承認を得たものです。

国内初のAI医療機器である「EndoBRAIN」に続き、2019年9月には頭部MRA画像から脳動脈瘤を診断する「EIRL aneurysm」(エルピクセル社)が[ⅶ]、2022年4月はインフルエンザに特徴的な所見を咽頭画像から検出する「nodoca」(アイリス社)が承認されました[ⅷ]。

[iii]Healthtech-DBホームページ(最終閲覧日:2022/12/22)

https://healthtech-db.com/articles/ai-medical-devices-approval-2022

[ⅳ]株式会社CureAppホームページ https://cureapp.co.jp/ 

[ⅴ]アステラス製薬株式会社ホームページ https://www.astellas.com/jp/news/21546

[ⅵ]サイバネットシステム株式会社ホームページ 医療画像ソフトウェア 製品情報

https://www.cybernet.co.jp/medical-imaging/products/endobrain/

[ⅶ]EIRLホームページ https://eirl.ai/ja/eirl-brain_aneurysm/

[ⅷ]nodocaホームページ https://nodoca.aillis.jp/

4. SaMDと規制改革

SaMDはAI等を活用したソフトウェアであり、診断や治療への展開が強く期待されていますが、薬事承認に時間を要するなど、規制の観点から社会実装が十分には進んでいませんでした。

2022年12月22日に第15回規制改革推進会議 第56回国家戦略特区諮問会議 合同会議が開催され[ⅸ]、SaMDの早期開発や市場投入の促進に向けた新たな制度を導入する方針を示しました。

例えばSaMDに関する二段階承認制度を導入することで、非臨床試験で安全性などが確認された段階で、早期に承認を得て上市することが可能となります。今まで約4年以上要していた薬事承認までの期間を、最短で約1年にまで短縮することができ、SaMDの早期の臨床投入が実現し、性能の向上につながることが見込まれます。

当会議では他にも、革新的なSaMDの開発を可能とする観点から、SaMDの新たな保険償還の仕組みや、保険点数の再評価制度、一般人が医療機器の選択を行う際に必要な情報提供のあり方や広告規制の要否についても検討されています。

以上のようなSaMDの特性を踏まえた新制度の導入は、SaMDの社会実装への一歩となり、SaMDの上市や機能向上が欧米諸国と同程度以上に順調に進むことが期待されています。

[ⅸ]内閣府  第15回規制改革推進会議 第56回国家戦略特区諮問会議 合同会議 議事次第

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/221222/agenda.html

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