【ホワイトペーパー/グラム染色】腹腔内感染症におけるグラム染色の有用性

腹腔内感染症におけるグラム染色の有用性

腹腔内感染症とは 主に消化管穿孔や虫垂炎,憩室炎からの二次性腹膜炎や膿瘍形成など,肝胆道系を除く腹腔内の感染症全般を指します[1]。起炎菌は腸内常在細菌叢を構成する代表的な細菌であるEscherichia coliKlebsiella pneumoniaeなどの腸内細菌とBacteroides属などの嫌気性菌です [1, 2, 3]。しかし、院内/医療関連感染ではPseudomonas aeruginosa、感染反復例や抗菌薬投与歴がある例ではEnterococcus属をカバーする抗菌薬を選択する必要があります。さらにEscherichia coli 、Bacteroides属の耐性化、混合感染などの問題もあり、初期の狭域抗菌薬の選択は困難です。米国外科感染症学会による腹腔内感染症マネジメントガイドライン改訂版におけるグラム染色の利点としてCandida属など真菌感染の同定が挙げられています [3]。消化管穿孔、外科治療による膵炎、長期にわたる広域抗菌薬投与を受けた患者、Candida菌に曝露された可能性のある腹腔内感染症患者では、Candidaによる感染のリスクが高く、腹腔内検体のグラム染色で酵母が認められた場合は、Candida属に感染しているとみなすことがGrade 2-Bで推奨されています [3]。真菌を標的とした抗菌薬投与は感染症初期に行われることは少ないため、同定によるメリットは大きく、リスクの高い患者においてグラム染色は施行するべきと考えられます。

微生物学的検査の推奨患者について

一方でグラム染色や培養検査について否定的な見解もみられます。同様に米国外科感染症学会のガイドラインにおいて腹腔内検体のグラム染色、培養などの細菌学的評価は低リスクの市中腹腔内感染症患者でルーチンに行うことは推奨されておらず(Grade 1-B)、高リスク患者や耐性菌、日和見感染が推定される場合や難治性の場合に行うことが推奨されています。(Grade 1-C)[3]。低リスクの市中腹腔内感染症で感染巣がコントロールされており、経験的な抗菌薬によって治療反応性が良好な場合には培養に応じて抗菌薬を変更する有用性が示されていないことが要因です。肺炎や尿路感染などの一般的な感染症では、同定された細菌に応じて抗菌薬を選択することの有用性が示されていますが、腹腔内感染症では細菌学的検査結果の適用は難治性患者への利点が大きいと言えます。

腹腔内感染症においては外科的な感染巣のコントロールに加え、適切な抗菌薬の選択、十分な期間を投与する必要があり、起炎菌を同定するグラム染色、培養検査は必ず行うべき検査ですが、結果の利用については十分に検討する必要があります。

参考文献

[1] 福井由希子, 上原由紀. 《市中感染症》:肝胆道系感染症、腹腔内感染症. 内科. 2017; 122(1): 31-38.

[2] 竹末芳生. 重症度別の腹腔内感染症に対する抗菌薬選択と治療期間:米国外科感染症学会の腹腔内感染症マネジメントガイドライン改訂版と対比して. 日本外科感染症学会雑誌.

[3] Mazuski JE, Tessier JM, May AK, et al. The Surgical Infection Society Revised Guidelines on the Management of Intra-Abdominal Infection. Surg Infect (Larchmt). 2017;18(1):1-76. doi:10.1089/sur.2016.261

2019; 16(2): 80-86.

CARBGEM+は、感染症領域で活躍する、スペシャリストのための専門情報サイトです。会員登録により会員限定の記事の閲覧が可能になります。

グラム染色を極める