【ホワイトペーパー/ワンヘルス】愛玩動物と主要な細菌感染症~診断と治療方針

はじめに
 近年、日本では飼い主が愛玩動物(イヌ、ネコ等)のための支出額が増加しています[i]。また、ライフスタイルの変化やコロナ禍を受けて、2019年から2021年にかけての犬猫の飼育者数は増加しており[ii](図1)、爬虫類や両生類等のエキゾチックアニマルと呼ばれる動物の飼育者も増えています。そこで今回は、愛玩動物における主要な細菌感染症を取り上げます。家庭で気をつける点や、獣医師がどのような診断、治療を行っているかについて整理したいと思います。


図1:日本経済新聞 ペット費用は右肩上がり 「環境改善」価格に上乗せを引用 新規イヌ・ネコ飼育数推移 出所ペットフード協会の推計
[i]アニコム損害保険株式会社「【2021最新版】ペットにかける年間支出調査」
[ii]一般社団法人 ペットフード協会 「2021年(令和3年)全国犬猫飼育実態調査 結果」

1.細菌に由来する尿路感染症[i]
 尿路感染症は、腎臓で炎症が起こる上部尿路感染症と、膀胱や尿道で炎症が起こる下部尿路感染症に分類されます。上部尿路感染症には糸球体腎炎、化膿性腎炎、腎盂腎炎等があり、下部尿路感染症には膀胱炎や尿道炎が含まれます。一般に尿路感染症は、雄よりも尿道がより短く細菌が体内に侵入しやすい雌での発症が多くなっています。腎盂腎炎と下部尿路感染症は犬で発症が多く、特に下部尿路感染症は犬の14%が一生に一度は発症すると言われています。

出展:RoYAL CANIN WEBページ 下部尿路疾患

  • 感染経路と主要な細菌
    尿路感染症の多くはブドウ球菌、大腸菌など動物の身体に常在する菌が、主に尿道から侵入し異常に増殖することで発症します。腎盂腎炎と下部尿路感染症については、消化管内の常在菌が原因菌の約80%を占めています。
  • 症状
    主な症状として、血尿・膿や粘液を含んだ尿、尿量の減少や多尿など尿量の異常、異常な臭いががする尿などの尿性状の異常や、排尿時に痛がる・元気が無くなるなどの症状が見られます。顕著な症状を示さないこともあります。
  • 診断方法
    画像診断・血液検査や尿成分・性状の検査を行い、腎機能、感染の有無、細菌種等の評価を行います。細菌性の腎盂腎炎や下部尿路感染症が疑われる場合には、尿培養を行い細菌を特定することが推奨されます
  • 治療方法
    細菌検査結果に基づいて、抗菌薬の治療による治療を行います。尿路感染症は複数の菌に由来することが多いため、広域の抗菌薬を使用することがあります。化膿性腎炎などで状態が悪い場合には腎臓の摘出手術を行うこともあります。

[i]『コアカリ獣医内科学Ⅱ 泌尿生殖病学・内分泌代謝病学』(文英堂出版)

2.細菌に由来する消化器感染症[i]
 細菌に由来する消化器感染症は細菌性腸炎と呼ばれ、原因菌の感染によって消化管症状が現れます。原因菌の種類によって、クロストリジウム症、サルモネラ症、カンピロバクター症、組織球性潰瘍性結腸炎などの疾患に分類されます。一般に若い動物で症状が出やすいですが、組織球性潰瘍性結腸炎はボクサー犬に発症が多く、犬種によって発症頻度が変わることが知られています。消化器感染症の代表的な症状である下痢は、ウイルスや寄生虫など細菌以外の原因も含めると症例数が非常に多いため、どの疾患であるかの判断が治療法の決定に重要となります。

  • 感染経路
    原因菌に汚染された食べ物や水、糞便の経口感染が主な感染経路です。クロストリジウム症では、腸管内の常在菌であるクロストリジウムが何らかの原因で毒素を発生するようになると発症します。
  • 症状(家庭での目線で注意すべき点など)
    下痢や下痢に伴う脱水症状、血便、粘液を含んだ便、発熱、元気がない等が主な症状ですが、成熟した動物では顕著な症状を示さないことがあります。
  • 診断方法
    糞便の状態(形・硬さ・色)の観察、糞便塗抹標本の観察、糞便の細菌培養同定、エンテロトキシンの抗原検査、原因菌の遺伝子検査などにより総合的に診断を行います。
  • 治療方法
    腸管の機能回復を目的とした支持療法とともに、細菌検査等の結果に基づき、抗菌薬の投与を行います。ただし、抗菌薬の使用は腸内細菌叢に悪影響を及ぼす可能性があるため、原因菌が特定されている場合や免疫不全や全身症状が見られる場合に限定すべきです。

[i]『コアカリ獣医内科学Ⅱ 泌尿生殖病学・内分泌代謝病学』(文英堂出版)

3.細菌に由来する皮膚感染症[i]
 細菌に由来する皮膚感染症には膿皮症が挙げられます。

  • 感染経路
    外傷やアレルギーなどの基礎疾患、免疫の低下が見られるときなどに皮膚の常在菌が過剰増殖することで発症します。原因菌はブドウ球菌や緑膿菌、大腸菌、Pasteurella multocidaなどの常在菌です。
  • 症状
    皮膚の赤み、かさぶた、膿疱、皮膚のただれ、脱毛など。
  • 診断方法
    病変部及び浸出液を検体として細菌検査を行います。膿皮症は基礎疾患を併発している可能性が高く、基礎疾患に関する診断もまた合わせて実施されます。
  • 治療方法
    抗菌薬の入った軟膏の塗布と抗菌性シャンプーによる洗浄を併用するのが一般的です。症状が広範囲の場合は抗菌薬を全身投与することもあります。

[i]『コアカリ獣医内科学Ⅱ 泌尿生殖病学・内分泌代謝病学』(文英堂出版)

まとめ
 上記のような症状があるからと言って必ずしも細菌感染症に罹患しているとは限らないため注意いただきたいのですが、少しでも違和感があればまずは近隣の獣医にかかっていただき、適切な診療を受けていただくことが重要と考えられます。

 




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