【論文/薬剤耐性】全国の薬局から収集した調剤情報に基づく抗菌薬使用量の推移とその要因の探索: 第一報

Executive Summary

目的:
抗菌薬の不適正な使用は、薬剤耐性(AMR)の発生に繋がるため、世界的な問題となっており、抗菌薬の使用量を監視することは非常に重要と考えられている。本研究では、薬局で用いることができる新たな抗菌薬使用量(AMU)の指標として、「Defined Daily Doses(DDD)」/「1000処方箋/月(DPM)」の有用性を評価し、日本全国の薬局における抗菌薬使用パターンを明らかにすることを目的とする。

手法:

調査期間:2019年と2021年のそれぞれ1月、6月
調査参加薬局:2638の保険薬局
具体的な調査方法:調査対象とした薬剤は、解剖治療化学分類法 (ATC)によるコードJ01の経口抗生物質である。各保険薬局から取得した調剤量・処方箋受付枚数・施設情報を日本薬剤師会が集約し、DPMを算出した。

結果:

病院からの処方箋を主に受け付けている薬局と診療所からの処方箋を主に受け付けている薬局のどちらにおいても、第3世代セファロスポリン、キノロン、マクロライドの使用量は2019年から2021年にかけて減少した。

診療科ごとに分類してAMU(DPM)の推移を見ると、皮膚科のAMUは調査期間を通してほぼ一定で減少していなかった。一方、耳鼻咽喉科はAMUが減少傾向にあるものの、他の診療科よりも多かった。

耳鼻咽喉科では主に第3世代セファロスポリン、キノロン、マクロライドの使用がAMUの動向に関連しており、皮膚科では第3世代セファロスポリン系とマクロライドの使用が関連していた。また、皮膚科ではテトラサイクリンの使用が圧倒的に多かった。

考察:

2019年から2021年にかけてのAMUの減少には、AMR対策に加えて、COVID-19の感染拡大による医療機関受診数の減少が寄与している可能性がある。

DPMという新たな指標を用いることにより、診療科ごとにAMUの差があることを明らかにした。診療科に応じた介入の必要性が示唆される。

特に耳鼻咽喉科は、上気道感染症のほか、慢性副鼻腔炎や中耳炎の患者も多いため、処方箋受付件数に対する抗菌薬処方頻度、使用量、投与日数の割合が高いと考えられる。

皮膚科では薬剤耐性菌による膿痂疹や蜂巣炎などの治療に第3世代セファロスポリン系とマクロライドが用いられることが多い。また、テトラサイクリンの使用が圧倒的に多かったのは尋常性ざ瘡や天疱瘡に有効であるためと思われる。

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