- 英文タイトル:Phage-antibiotic synergy is driven by a unique combination of antibacterial mechanism of action and stoichiometry
- 雑誌名:ASM Journal
- 著者:Carme Gu Liu et al.
- 掲載年月:2020.8
- URL:https://journals.asm.org/doi/full/10.1128/mBio.01462-20
Executive Summary
目的:
本研究では、薬剤耐性遺伝子の有無、抗菌薬の作用機序、宿主環境の観点から、バクテリオファージ(以下、ファージ)と抗生物質の相乗効果を解析することにより、様々な抗生物質と組み合わせた際のファージがもつ殺菌能力を評価することを目的とする。
手法:
ファージと抗生物質の相乗効果を測定するために、マイクロタイタープレートを用いたリアルタイム測定を行った。腸管外病原性大腸菌(ExPEC)の薬剤耐性パンデミッククローン群を対象に、様々な濃度の抗生物質とファージ(ΦHP3)を使用した際の、細菌の減少率を評価し、データを色分けしてヒートマップ(シノグラム)として表現した。
結果:
- 野生型ExPEC(JJ2528)にクロラムフェニコールとファージを投与した結果、相加効果によりMICが32倍減少した。一方、ファージの力価を上げると、細菌の減少率は低下し拮抗効果が見られた。
- クロラムフェニコール耐性ExPECに、ファージとクロラムフェニコールを投与したところ、CAT酵素(クロラムフェニコールアセチル基転移酵素)の存在に関わらず高い減少率を示した。
- セフタジジム耐性株にセフタジジムとファージを投与した結果、クロラムフェニコール-ファージの場合に比べて強い相乗効果が見られ、拮抗作用はあまり見られなかった。
- ファージとコリスチン(細胞膜破壊剤)の組み合わせでは相乗効果と拮抗効果の両方が見られたが、トリメトプリム(葉酸合成阻害剤)では、相乗効果が見られなかった。そして、シプロフロキサシン(DNAトポイソメラーゼ阻害剤)では、わずか1%の減少率で拮抗効果が見られたが、ファージ力価を高くしていくと細菌の減少率が73%まで回復した。カナマイシン(タンパク質合成阻害剤30Sサブユニット)では、相加効果と相乗効果の両方が見られた。
- 宿主がファージと抗生物質の相乗効果に与える影響に着目し、宿主の生理環境である血清と尿を用いて細菌の減少率を調べたところ、高濃度のセフタジジムと高力価のファージを用いれば尿中では相乗効果、血清中では相加効果が見られた。しかしそれ以外の濃度の組み合わせではどちらもほとんど細菌の減少は見られなかった上、血清中ではむしろ拮抗効果が大きかった。
考察
- ファージは薬剤耐性株のMICを低下させるアジュバント効果を発揮することが示唆された。つまり、ファージは耐性菌に効果のない抗生物質の働きを、再び蘇生させる働きがあると考えられる。
- 異なるタイプの抗生物質がファージに対して異なる相互作用を示すことから、ファージ-抗生物質相互作用の結果は抗生物質の種類や作用機序によって異なる可能性があることが示唆された。特に相乗効果が認められる場合には、耐性菌の出現を抑制することが示された。
- さらに、宿主環境においてはファージと抗生物質の相乗効果が弱まるものの、尿のような酸性環境下でも、ファージとセフタジジムによる相乗効果を維持することができることから、尿路感染症の治療にファージ療法が有効な可能性がある。