※本インタビューは2022年12月に実施しています
(カーブジェン有泉(以下、有泉))まずは薬剤耐性菌に関する研究動向についてお伺いしたいと思います。先生はAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構、Japan Agency for Medical Research and Development)で2017年から診断と治療法について研究されているとお伺いしていますが、その研究動向についてお聞きしたいです。
(栁原先生) 私はAMEDの薬剤耐性の診断・治療薬の代表研究者を2017年から1期、2020年からは2期目を務め、現在は2期目の報告書を作成しているところです。
研究にはいくつかの柱があります。
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1つ目は診断です。診断には質量分析装置が広く使われているので、これをいかに活用していくかが課題です。質量分析装置は菌種の同定に使用されていましたが、薬剤耐性菌においてはあまり効果を発揮できないため、耐性菌の検出に応用できるかについての議論がなされてきました。
2つ目は、生物の全ゲノム解析をいかに簡単に行い臨床応用できるようにするかについて研究を行っている、ゲノム解析グループです。このグループは日本だけではなく東南アジアなどの国々とも共同で研究を進めており、新しい耐性遺伝子をいかに薬剤耐性菌の治療に使うかについての研究を推進しています。別の班はその遺伝子解析に近いPOT法というMRSAやClostridioides difficileをタイピングする技術があるのですが、この技術自体はもう確立されているため、地域ごとにMRSAのタイピングを行うという研究を進めています。
さらに、抗菌薬を使わない治療法についても研究しています。例えば皮膚科などで用いられている、光触媒を使って菌を攻撃し、抗菌薬は使用しない方法がこれにあたります。日本海洋科学研究所で日本海溝などの深海に生息する深海微生物を採取し、そこから新規抗菌薬を作成する取り組みも興味深いと感じています。診断、解析・タイピング、治療など、様々な形で薬剤耐性の研究に関わっているというわけです。
(有泉) MALDI-TOF MSの解析に関して、検体は純培養せず、そのまま解析にかけることをお考えでしょうか。
(栁原先生) 血液培養検体は検体そのまま解析にかけることが認証されているため、血液培養検体では行っています。ただ、私たちとしては菌の同定ではなく感受性の研究に重きを置いており、抗菌薬と混ぜて解析することも試しています。尿に関しては10の5乗CFU/mLの濃度があればMALDI-TOF MSにかけられます。なので、直接的な同定なども血液培養検体を用いることが可能です。
(有泉)ありがとうございます。そうなると、購入費用は高いですが大きな病院であれば迅速に菌種の同定が可能になりますよね。
(中島) 先ほどおっしゃったAMEDのAMR(antimicrobial resistance: 薬剤耐性)の研究は、大学などのアカデミアがメインになりますでしょうか。
(栁原先生) 研究はアカデミアが中心ですが、行政や企業などとも協力することが大切です。
(中島) 先ほど東南アジアについてお話がありましたが、どの地域のお話になりますでしょうか。東南アジアは抗菌薬の不適正使用が酷く薬剤耐性問題が深刻と聞いています。
(栁原先生)検査関連学会の一つである医療検査科学会ではミャンマーに行こうとしていました。あとはインドネシアやタイ、ベトナムなどです。
(有泉) 以前ベトナムのバックマイ病院にお話を聞きました。ベトナムではかなりAMRが深刻ですが、東南アジア全体だとどうでしょうか。
(栁原先生) 全体的に深刻です。市中にAMRが広がっており、下水も完備されていないため下水に菌が流出したりしています。
(中島) 前回ベトナムに行った時には薬局で処方箋無しで抗菌薬が売られていました。
(栁原先生) フィリピンも同様でした。
(中島) そのため病院に来ても既に抗菌薬を投与済みで、新しい抗菌薬が効かないケースもあると聞きました。これから一層、日本と海外、特にアジア地域との連携が期待されますね。
プロフィール:
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
病態解析・診断学分野(臨床検査医学) 教授
長崎大学病院 臨床検査科/検査部 部長
東北大学非常勤講師
大阪公立大学非常勤講師
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