※本インタビューは2023年2月に実施しています
(カーブジェン有泉(以下、有泉))最後にAMRの話に移らせていただきます。スウェーデンやオランダは薬剤耐性の割合が低いとされていますが、そのような国々と比較して日本に足りないものは何だと思いますか?政策的なレベルや、技術的な改善点等あればお願いします。
(大曲先生)日本は感染の防止対策や抗菌薬の適正使用などに関する、病院を中心としたシステム作りは非常にうまく進められていると思います。他国と比べても、建前を抜きにしてしっかり出来ていると確信しています。しかし、結果はある程度出ていると思いますが、これまでの習慣で、抗菌薬が不要な時にも使用してしまっていることの影響は大きいかもしれません。
加えて改善点を挙げるとすれば、研究開発です。技術もあり、優秀な先生方がいらっしゃるのに、その技術や能力が活かされないまま、研究の分野が発展していないと非常にもったいないと思います。これは先ほどの MCM(メディカルカウンターメジャーズ)を盤石にすることにもつながります。
国際貢献に関しても日本はもう少しできることがあると思っています。海外ではAMR対策と言うと、行政から指示はされているにも関わらず現場には問題があるという状態です。実際に現場のオペレーションを変えるような取り組みはそれほどなされてないんですよね。しかし、現場をどう変えるかについては日本人の得意分野ですし、JICAを中心としてODAなどでしっかりしてきたところなので、そういう根本的に大事なところを進めていく必要があると思います。
(カーブジェン中島(以下、中島))「上からの指示はあるけれども現場は全然動かない」とアメリカの大学と共同研究をしている海外の先生もおっしゃっていました。そういう時の日本の現場力は高いので、AMRに関してはチャンスかもしれませんよね。
(大曲先生)アクションプランなどを見てもそう思います。G7関連の様々な文章を見てみると、課題の中でナショナルアクションプランが各国で実行されてないことがわかります。多分現場に手が入っていないと思うんですよね。
(中島)そこは日本が差別化できる点ですね。最後に、少し話はずれてしまうのですが、先生の座右の銘がダンテの「汝の道を進め、そして人々をして語るにまかせよ」だとお伺いしたのですが、どういったご理由なのでしょうか。
(大曲先生)お世話になった先生の本に書いてあったものです。この感染症の領域をやり続けていいのかわからない、自信がない、今そもそも自分には全然力がない中で進んでいく。ましてや当時は感染症はあまり注目されない領域でしたし、未来がないなどとも言われました。そういった不安をうち消すような言葉が響いたのです。
(中島)ベンチャー企業をやっていても日々その問題に直面します。そんなことをやって意味があるのかと言われるばかりです。 (大曲先生)周りが何を言おうと、もうやるしかないですよね。
プロフィール:大曲貴夫
国立国際医療研究センター
・国際感染症センター長
・AMR臨床リファレンスセンター長
・DCC科長
・感染症内科医長