(カーブジェン中島(以下、中島))2022年8月現在、山元先生が2011年に国立国際医療研究センター(NCGM)に来られ約11年経ったと思います。COVID-19も然りですが、日本において新興・再興感染症は増えてきているという印象でしょうか。
(山元)そうですね、海外から日本への人の流入が年々増えてきていたこともあり、国内における輸入感染症は増えたと感じることはあります。
(中島)年々地球温暖化が進んできているようにも感じますが、それだけではなくてCOVID-19以前は、インバウンドの旅行者を増やそうという取組を受けて3000万人程増えました。今後それを5000万人、6000万人に増やしていこうという動きの中で、海外との往復量が増えると、いくら水際対策をしっかりとしていても海外からの感染症患者が増える印象はございますでしょうか。
(山元)2014年に国内でデング熱患者が出た事例も、おっしゃるような国際化の潮流が影響していると思いますし、感染症患者が増えた一因にはなると思います。海外から渡航をした感染症患者を診る機会は増えたような印象はありますし、水際対策だけでなんとかするというのは厳しいでしょうね。
(中島)あれだけアジアからの人が大勢入ってくれば当然感染症患者も増えるであろうとは思います。また、COVID-19対策という観点で、日本ではMERSやSARS等への経験が乏しく後手に回ってしまったいう内容が新聞等に載っていた一方で、中国、香港や韓国はその経験があったために今回のCOVID-19の対策が迅速だったという話も伺いました。日本も海外からの感染症対策もレベルを上げる必要があるというご印象はございますでしょうか。
(山元)結果論で言うならそこまでは思いません。COVID-19については、中国から流入してくる方がいる中で初期の感染の波は他国と比べ穏やかであったと思いますし、知らない所で海外からの流入が活きた点というのもあったのかもしれません。けがの功名的には良くも悪くも注目されることに繋がったように感じます。
(カーブジェン有泉(以下、有泉))2019年の年末頃から2020年の年始頃にかけてCOVID-19が日本にも広がり始めました。NCGMは先頭に立って診療をされていたと思うのですが、当時の対応を教えていただけますでしょうか。

(山元)流行当初は武漢からのチャーター便などの対応ですかね。症状の軽い方がほとんどでしたが、有症状の方を振りわけ、NCGMか他院にて入院をしてもらい対応していました。全例検査対象となっており、症状のない方でも検査していました。あとは当初検査のニーズが高くなり、通常の外来で診療が回らなくなったときには現在の発熱外来の走りのような簡易診療のみの検査外来みたいなこともやっていましたね。
(中島)これは2021年の年末か2022年の年始だと思うのですが、ほぼ離職者がいなかったという記事を拝見しました。医療現場の状況は全く変わらない場合、仮に普通の企業や組織で本当に大変だとしたら、どこかでやめたりということもあると思うのですが、なぜそこまで過酷な環境の中で皆さん頑張れたのかということを、可能な範囲でお伺いしたいです。
(山元)NCGMは感染症や国際医療がミッションであるナショナルセンターですので、勤務されている方にもそのように考える方が多いということも手伝ったのかと思います。真相はよくわかりませんが。
(中島)本当にNCGMの方含め医療従事者の方には感謝しております。一方で、よくニュースでは「医療崩壊」という単語を目にします。NCGMから出版されていた書籍「それでも戦いは続く」には、感染症専門医は日本に1500人〜1600人ほどしかいないと書いてありましたが、他の国と比較するとこの数字は少ないのでしょうか。
(山元)感染症専門医が多くないという事実は、日本に関わらずあるように感じます。米国などでも、コロナ禍以後にややそれが加速しており、問題にはなっているとも聞きます。
(中島)なぜ少ないのでしょうか。
(山元)日本においては、私が感染症の医師になった時ですら体系的に学べるような医療機関も多くなかったのも一つでしょうね。私が初期研修をした病院を決めたのは感染症診療のプロフェッショナルである青木眞先生が定期的に指導にいらしていたという理由も一つでした。熱がでたら使いなれた抗菌薬をガイドライン通りに投与すれば良いという認識から、感染症もどういう臓器が悪くてどういう影響を与えているのかを考えるべきであるという認識はもてたように思えます。その後、全国的に感染症診療に関する考え方はその時より広まってきたとは思いますが、まだまだご賛同いただけない方がいるのも事実かと思われます。
(中島)様々な先生にお話を聞いていますが、カリスマ的な先生に会って話を聞いて感動して感染症分野に入ったという方も多いと思いますし、この流れがさらに増えていけばいいと思います。また、今回のCOVID-19によっても、これまで以上に感染症領域が注目されて、この分野に携わる方が増えればいいなと思います。
(山元)そうですね。色々な意味で感染症領域の仕事について知られたかと思いますが、何をやっているか分からないというよりは良いと思います。
(中島)感染症の定義にもよりますが、日本でも世界でも感染症で亡くなられる方は多いと思います。もう少し感染症に関する医療従事者の教育に力を入れるなど、政策として配慮されてもよいとは思いますが、いかがでしょうか。
(山元)そうですね、もう少し感染症に関わる医療従事者が増えるとうれしいです。政策という話に関連しますが、公衆衛生の分野に進む感染症の専門家も少なくありません。感染症の面白さの1つではあるのですが、患者を診て、病気を診て治療をする以外に、公衆衛生の向上が重要である事を踏まえ、公衆衛生や医療政策の分野へ進む方も少なくありません。そのような方がそれらの教育制度などに踏み込んでもらえれば本分野も盛り上がっていくかもしれませんね。
(有泉)ありがとうございます。これから感染症領域がより盛り上がっていくことを期待しております。
プロフィール:山元 佳
2006年に弘前大学医学部卒業後、茅ヶ崎徳洲会総合病院で初期研修。感染症患者の多い小児で診療をするべく、神奈川県立こども医療センターで後期研修。その後、小児ではみることが少ないHIV、輸入感染症、結核の診療をするため、国立国際医療研究センターに総合感染症コースで3科ローテーションを開始し、コース修了後に国際感染症センターでフェローに従事、2017年から現職となった。臨床に主として携わりつつ、渡航医学、一般感染症、微生物検査についての臨床研究に携わっている。渡航前相談レジストリ、新規微生物検査の臨床応用、ワクチンの臨床的な側面を主なテーマとしている。