【KOLインタビュー】米国のAMRに向けたアクション〜#3

(カーブジェン中島(以下、中島))先ほどのお話ではアメリカでは薬剤耐性(AMR)に対してまだ十分な対策が取れてはいないと理解しました。一方でアメリカが当に言及していますが、薬剤耐性問題は社会的な問題になっています。2050年に1000万人が死ぬのではないかとも言われている中で、薬物耐性問題を解決するためによりnarrowな抗菌薬を出そうとするアクションは実際にはあまりないのでしょうか。

(篠崎)アメリカではそういったアクションはまだ少ないと感じています。あくまでも教育の一環で、ICUの医師は全員が同じ教育を受けているため、よりnarrowな抗菌薬を出そうという思いはあると思います。ERでは医師に知識としてはあっても、アクションを促すためのシステムが今はないと思います。

(中島)システムがついて行ってないのですね。救急領域における感染症疑いで患者さんがいらした際は、日本とアメリカで違いはありますでしょうか。あまり気にせずに主にbroadな抗菌薬を出すことが多いのでしょうか。

(篠崎)アメリカでは感染症の疑いで、ウイルスに起因するものであるとわかっていても熱があり脈拍が高ければ、その時点で抗生剤を出してしまうことが少なくないように感じます。

(中島)頭では理解しているが現実には実践できていない雰囲気は分かる気がします。一方で、地球温暖化問題と同じようにルールが変わる、仕組みが変化するだけではなく、新しいテクノロジー、技術によって変えようといった動きはないのでしょうか。

(篠崎)そのような方針は、アメリカ人が非常に好むと思います。月に初めて人を送り込んだのもアメリカですし、動機は冷戦と戦争があったかもしれませんが、やはり科学技術で課題を克服するというコンセプトをアメリカ人は非常に好みます。私からしてみるとソ連から物理学者を連れてきて、アジア人をラボで働かせるなど、化学技術を支えているのは他国の技術者のようにも感じますが、自分たちの強みを活かして世界・地球規模で、変化を常に起こしていきたいというアメリカ人の自負があるように感じます。

(中島)世界中のほぼすべての国が、AMR問題自体は認識しているが、目先の現場に落ちてくると忙しいために、昔からの方法を行っているのが現実だと思っています。そしておそらくその現状を変えるカギは、日本ではルール、アメリカでは技術なのではないかと感じました。前述されたように、月に行くことや地球温暖化への危惧もそうですが、テクノロジードリブンでルールが変わると感じています。AMRの世界でも技術の登場によってムーブメントが起こる可能性があると期待しますが、何が必要なのでしょうか。

(篠崎)答えは二つあって、診断技術とエビデンスが重要です。ここで指すエビデンスとは、多剤耐性菌を作らなかった、もしくは多剤耐性菌を作らなかったことによって救命率を上げることができたということです。今回のCOVID-19のような緊急事態において、テクノロジーやセオリーだけで突き進むことは例外的にあると思いますが、やはり確かな診断がないとアウトカムを出せません。従って、どちらが先かというと診断技術が先だとは思いますが、診断を変えたことによって良いことが起きたというエビデンスのその両者がないといけないと思います。

(中島)CDCやWHOが言及している薬剤耐性問題は、2050年には1000万人が亡くなると言われており、実際に現在、過去数年でも年間百数十万人は世界で死者が増えているとも言われています。アメリカでもAMRによる死者が増えていると言われていますが、一方でデータを見てもしっかりと定点観測しているデータがないようです。2013年からずっとアメリカに来られていて、感覚的に総死者数や多剤耐性菌が増えているといったことはあるのでしょうか?

(篠崎)皆さんが猫も杓子も多剤耐性菌やバンコマイシン耐性菌、MRSAなどの状態にならないと、臨床での実感は薄いのではないかと思います。また歴史的にリネゾリドやバンコマイシン耐性のブドウ球菌に対して、結局のところ抗菌薬が追いついてきたといった事実に対する甘えもあるのではないでしょうか。問題が顕在化してからでないとアメリカ人は動かないのではないかなと思います。しかし一度そのような状況になれば対応が早いのもまたアメリカだと思います。

(竹谷)新型コロナに対するmRNAのワクチンもそうですよね。

(篠崎)昔から保有しており、別の用途を試みようとしていた技術ではあると思いますが、それをすぐに切り替えワクチンに使用するなど、技術をいかすタイミングが大切なのだと思います。また少し違う話かもしれませんが、私の父曰く、叔父が「水は大事だ」と言って、50年ほど前に日系企業などのフィルターの技術を受けて浄水器を作ったものの、全く売れないといったことがありました。これも当時水は綺麗な時代で、数十年タイミングがずれていれば売れていただろうと考えると、技術を出すタイミングの大切さに気づかされます。

(中島)ベンチャーにおけるテクノロジーでも、高い技術力と同時にポジショニングも大切です

(篠崎)はい。少し早すぎて流行らなかった、売れなかったということは往々にあります。今は売れないけど,将来必ず役に立つという技術をサポートするのも、国の役目であるように感じます。

(中島)貴重なお話を聞かせていただき、誠にありがとうございました。

プロフィール:篠崎 広一郎
Department of Emergency Medicine, Donald and Barbara Zucker School of Medicine at Hofstra University and Feinstein Institutes for Medical Research, Northwell Health, Assistant professor


2002年千葉大学医学部卒業。その後千葉大学にて救命救急医として勤務し、米国ペンシルバニア大学を経て、現職。救急救命における細菌感染症、特に敗血症等の救命治療研究に従事。

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