【KOLインタビュー】大沼 健一郎氏(神戸大学)〜薬剤耐性問題解決に向けて望まれること〜#3

(カーブジェン中島(以下、中島))抗菌薬の適正使用という観点で、貴院で注意されていることはございますか。

(大沼)適正使用を厳格に行うための1つの手法として、薬剤感受性試験の結果の報告を数薬剤に限定するという例もあるのですが、当院の方針としてはメジャーエラーをなくすために広域の抗菌薬を出しつつ、注意すべき抗菌薬を長く使用している患者さんに対してde-escalationを図っています。できれば、迅速に狭域の抗菌薬をスタートさせることが望ましいのですが、今我々の行っている検査では時間、精度の観点で不十分なのが実態です。グラム染色は確かに迅速に菌種を推定できるのですが、あくまで推定のレベルであり精度の面で懸念は残りますし、一方で質量分析等は精度が非常に高いのですが培養の時間を要してしまうので抗菌薬を投与したい時点に間に合っていません。某社のフィルムアレイの装置があり24種類の病原体を40分ほどで同時に分析できますが、そういった多項目を同時にかつ瞬時に検知できる装置がないと、メジャーエラーの可能性を排除し抗菌薬を処方しなくてもよいという判断を下すのは難しいです。

(中島)精度だけでなく、迅速な検査ができる装置があってこそ投与しなくても良いと判断することが可能になるということですね。その検査に保険点数がつくと良いですね。

(大沼)私もそう思います。グラム染色だけではCovid-19をはじめとしたウイルスなどの病原菌は判別できないので、上述したフィルムアレイの遺伝子パネルのような網羅的かつ迅速な装置が非常に重要と考えています。

(中島)細菌検査の一連の流れを考えると、まずは検体から直接グラム染色や遺伝子検査を行い、その後培養して分離してから質量分析や薬剤感受性試験を実施する必要があり、今お話していたのは前半部分でした。後者の培養の部分においては、少なくとも一晩は培養していると思うのですが、この部分はやはり診療の大きなボトルネックでしょうか。

(大沼)はい、ご認識の通りです。確かにグラム染色や遺伝子検査を使えば検体のまま菌種の推定は可能ですが、薬剤感受性試験を行うには菌を分離する必要があるのでいずれにしても培養の時間は必要です。なので、菌の培養スピードを早めることができればいいですよね。あるいは、尿検体から培養なしでそのまま薬剤感受性試験まで実施する技術などがあればいいなと思います。

(中島)例えばなのですが、大沼先生のようにご経験のある技師の方であればグラム染色像から薬剤感受性がわかったりはしませんでしょうか。抗菌薬を投与している患者さんのグラム染色像を見ると、菌が長く伸びて見えるというお話も聞きました。

(大沼)それができると一番いいのですが、今のところわからないです。菌が伸びて見えるのは抗菌薬の影響を受けているためであり、抗菌薬に対して感受性があるとも言えますし、ややこしいのが、抗菌薬を投与していなくても種々の影響で形状が変わることもあります。ですので、耐性菌しか持っていない特徴が重染色で評価できると面白いですね。

(有泉)なるほど、伸長しているだけでは判断できないのですね。

(大沼)少し話が変わりますが、微生物の検査で大きな課題は様々な基準が曖昧な点です。どのような臨床所見があればどのような検査をすべきかであったり、同定した菌に対してどの抗菌薬を使うべきかなどが決まっていません。測定した結果をもとに原因菌等を判定するのは米国のCLSIや欧州の文書で決まっているのですが、測定するための基準は決まっていないため、属人的になっています。

(中島)診療のガイドライン等には多少記載されているように推察しますが、いかがでしょうか。

(大沼)尿路感染症であれば化学療法学会からガイドラインが出されていて、グラム陽性/陰性の該否に応じて取るべき治療法は整理されており、グラム染色をやる意義については言及されています。

(中島)疑わしくはまずグラム染色、というようになればいいですよね。ありがとうございました。

■本連載は全3回です。

■第1回インタビュー(臨床微生物検査技師としてのキャリアと薬剤耐性問題#1)はこちら

■第2回インタビュー(薬剤耐性問題と臨床現場のリアル#2)はこちら

プロフィール:大沼 健一郎
神戸大学医学部附属病院検査部 臨床検査技師


2019年、神戸大学大学院 医学研究科 内科学系専攻博士課程修了(学位:医学(博士))。
薬剤耐性遺伝子検出法、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌スクリーニング法の検討など、臨床微生物学分野の診療や研究に従事。

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