【医療現場最前線】大沼 健一郎氏(神戸大学)〜薬剤耐性問題と臨床現場のリアル〜#2

(カーブジェン有泉(以下、有泉))続いては、先生のご専門である微生物検査に絡めたお話しになりますが、薬剤耐性問題(antimicrobial resistance : AMR)における臨床現場のリアルについてお伺いさせてください。AMRの原因の1つとして、抗菌薬の不適正使用が挙げられておりますが、それは菌の同定ができていないことに起因していることになると思います。迅速な治療開始においては、細菌の培養結果を待たずグラム染色で菌種を推定することが重要となりますが、若手の医師の方だと判読に窮する方も少なくないと聞きました。この点については実際いかがでしょうか。

(大沼)それに関連してお話すると、顕微鏡検の保険点数が上がりつつあり重要性が増しているにも関わらず、若手の医師の方は学生実習でグラム染色を習いはするが、臨床で十分に使えるレベルまで必ずしも達していないというのが正直な所感です。神戸大学出身の医師は大路先生の影響もあってか、他大学に比べてグラム染色に対して知識が高いように思います。しっかり理解しておいていただかないと、いざ診療するときに医師とコミュニケーションが取れなくなってしまうので、教育は重要になります。その一環として、当院では新年度開始の4月に、研修医に対して1時間グラム染色に関する実習と講義をしています。

(カーブジェン中島(以下、中島))染色、判読共に課題が多いということでしょうか。

(大沼)はい。ただ、どちらかというと大事なのは判読の方にはなりますが、そもそもピントを合わせて正しく読むという段階からの指導になります。

(有泉)臨床検査技師の方についてはいかがでしょうか。医師とは異なり、学生時代にグラム染色についてしっかり教育を受けるカリキュラムになっているのでしょうか。

(大沼)技師についても、学生時代に十分学んできている方は少ないのが実情です。なので、当大学では、現場で患者さんの検体をOJT的に見て学んでもらっています。まずは何も映っていない健常な方の検体ばかりを見てもらい、背景となる画像に慣れてもらうようにしています。徐々に疾患患者さんの炎症細胞や細菌が多く映っている画像を見てもらうようにして、直感的に疾患であることを認識してもらえるよう、教育する際には工夫をしています。それが終われば、ある程度の件数の検体を自身だけで見てもらうようにして、その後まとめてベテランの方と目合わせをしてチェックするというような体制を取っています。微生物検査の場合はグラム染色画像の判読正否は翌日の培養結果でわかるので、そこでグラム染色の判読に間違いがなくなれば、一人前と言えるようになります。

左:大沼氏 右:カーブジェンCEO中島

(中島)およそどの程度の期間で十分に習得されるのでしょうか。また、OJT以外でも学んでもらう方法等はございますか。

(大沼)グラム染色についていうと、他にも覚える業務があるので、3か月ほどですかね。OJT以外では勉強できる参考書等が少ないのが実情です。今でこそ大阪大学の山本剛先生の「グラム染色道場」の本がございますが、グラム染色に特化した本は殆どなく、感染症の専門書の一部にグラム陽性菌や陰性菌などの図が数枚ある程度です。それだけでは医師とやり取りするには不十分で、グラム染色道場のように患者の臨床所見とグラム染色像の両方を踏まえてどういったことが想定されるかまで踏み込めないと、よりよい診療には繋がりません。同じ喀痰の検体でも、抗菌薬治療中の方で見られる染色像と外来で来られる若い方の染色像では見え方がまるで変わりますし、処方すべき抗菌薬も変わってきます。そこまで考慮したうえで山本先生は本を作られているので大変勉強になりますし、目指すべき点だと感じています。

(中島)お聞きしていると、教える側としても負担が大きいようにも感じるのですが、指導時の課題は他にもございますか。

(大沼)まず、患者の検体を手に入れるのは難しく、教材の準備に悩むことがあります。また、実は医学部の保健学科の指導は必ずしも臨床検査技師が行う必要がなかったため、これまで現場経験のない先生の方が指導されることがありました。最近、法律が改正されて今後は技師を含んだ指導体制にすることになったのですが、この点も現場に近いリアルな教育ができなかった原因と言われています。

(中島)一方で、技師の方の人数が減ってきていて、一人当たりの業務負担が増えていることもお伺いしたのですが、その点についてはいかがでしょうか。

(大沼)当大学においては恵まれている方で、人数も多い体制下で運営できていると感じています。しかし、微生物の検査担当の方は、ICT(Infection Control Team)も兼務されていることが多く、日中の検査業務の合間にICTの業務はできないので、時間外でICTの対応をされているという話も聞いたことがあります。微生物の検査は属人的な要素も多く、指導に時間もかかってしまうので、猶更ICTの対応は後手後手になっているのかもしれません。

(中島)属人的な要素が多いために、業務の自動化はあまり進んでいないのが実情でしょうか。

(大沼)そうですね、自動化はほとんど進んでいないです。理由としてはおそらく前処理にバリエーションが多かったり、綿棒やカテーテルを扱う必要があったりと複雑な工程が多いことが考えられます。ただ、最近徐々に自動化も進んできていて、目視でなくカメラが代替する機械が作られたりはしているようです。

(中島)スマホカメラに見られるように、カメラの画像が非常に高解像度になったり、裏で動作をするCPUも格段に高機能になったことも追い風になったりしているのでしょうね。

(大沼)確かに、これまでは培地上の細菌コロニーを平面で捉えられるカメラはあったのですが、今のスペックのカメラだと、コロニーの凹凸までシャープに見ることができるようになってきていて、実臨床に耐えうる機能が出てきていますね。技師が直接触れずに評価することができるのは、技師の感染を防ぐという意味でも良いです。また、通常であれば細菌が生えた培地は廃棄してしまうのが通常なのですが、画像としてデータを保存できれば、後から見返したり教育に活かしたりすることもできます。

(有泉)検査業務の自動化は喫緊で必要ですね。ありがとうございました。

■本連載は全3回です。

■第1回インタビュー(臨床微生物検査技師としてのキャリアと薬剤耐性問題#1)はこちら

プロフィール:大沼 健一郎
神戸大学医学部附属病院検査部 臨床検査技師


2019年、神戸大学大学院 医学研究科 内科学系専攻博士課程修了(学位:医学(博士))。
薬剤耐性遺伝子検出法、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌スクリーニング法の検討など、臨床微生物学分野の診療や研究に従事。

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