【医療現場最前線】大沼 健一郎氏(神戸大学)〜臨床微生物検査技師としてのキャリアと薬剤耐性問題〜#1

(カーブジェン有泉(以下、有泉))ご経歴のところを確認させていただきたいのですが、まずは神戸大学にて修士まで進まれて、その後臨床検査技師として就職された理解でよろしいでしょうか。

(大沼)そうですね。就職して4年目から博士課程に進学して、少し時間はかかったのですが2019年に博士を取得することができた、という経歴になります。

(有泉)大学院生のころは関節リウマチの病態に関わるmicroRNA研究をされていたということですが、少し臨床検査技師としての領域とは離れていたのでしょうか。

(大沼)はい、関係ないです。修士の頃から関節リウマチの研究をしておりまして、縁があり博士でも関節リウマチの研究をしていました。

(有泉)そうだったのですね。microRNAの研究というのは、関節リウマチにおいて病態の進行に比例して発現量が増えるようなmicroRNAを同定するといった研究だったのでしょうか。

(大沼)研究室で同定していた、関節リウマチで発現量が低いmicroRNAの機能解析を行っていました。ですので、検査とは少し離れて純粋なbiologyの研究をしていました。現在は細菌のsmall RNAを解析する研究をしており、薬剤耐性に関与するものがあるので、その機能解析の研究をしています。mRNAはタンパク質合成の前段階ですので、このmRNAの発現量の変化を追うことができれば耐性が発生するよりも早い段階で予測することができるのでは、と考えています。

(有泉)臨床検査技師の業務と並行しての研究活動だけでも大変だと思うのですが、さらに他にもMALDI-TOF型質量分析器を使った薬剤耐性遺伝子の解析もされていたと拝見しました。

(大沼)こちらは大学院を卒業した2019年に、質量分析器(MS)を用いて薬剤分解産物を見ることで耐性因子を検討するという研究になります。こういったMSの分析は専門の試薬キットがないと行うことができないのですが、検査室にあるような汎用的な試薬で同等の解析が可能となる手法の開発を行っておりました。他には、技師がルーチン検査で使う試薬を使って耐性菌を早期に同定するための細菌用スクリーニング培地の検討といった研究もしておりました。まとめると、実際の検査の現場で使う手法の新規開発もしつつ、基礎的な生物的解析も行ってまいりました。

(有泉)ありがとうございます。これまでは、先生のご経歴についてお伺いしていましたが、少し大局的な観点から、薬剤耐性(antimicrobial resistance : AMR)に対して日本に期待されることについてご意見をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。技師さんの教育は非常に重要と推察しますし、小児のASP加算も一定の効果があったという報告もございましたが、それ以外にもどういった点が求められるでしょうか。

(大沼)おっしゃる通り小児ASP加算は重要ですが、これは小児対象で年齢に上限があるので、もう少し対象の年齢は拡大した方がいいのではないかと感じています。グラム染色の顕微鏡検査については保険点数も上がってきていて、なるべく迅速に正しい抗菌薬選定を促す方向に進んでいるようにも感じます。一方で、臨床検査技師の資格の中には、認定臨床微生物検査技師というものがあるのですが、この資格を持つ人が医療行為をしても保険点数には反映されないので、加算いただきたいですね。そうなれば、より微生物検査に関心を持つ臨床検査技師も増えて、教育も進みますし、AMRに対してより充実した対応をとれるようになるはずです。

(中島)グラム染色の顕微鏡検査やそもそも微生物検査自体の保険点数が上がってきているのはどういった背景なのでしょうか。他の診療項目に比べてあまり多くない事例だと感じています。

(大沼)顕微鏡検査については、迅速に診断して適切な抗菌薬を投与することによるベネフィットが認められてきているのだと思います。確かに、ここまで保険点数が上がってきているのは珍しいですし、どちらかといえばこれまでが安すぎたのだと思います。遺伝子検査については、マイコプラズマや結核の検査には点数がついていましたが、それ以外はこれまで全く点数がついていませんでした。ただ、最近ようやく黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性遺伝子とクロストリジオイデス・ディフィシルの毒素遺伝子の検査に点数がついたので、こういった点でも徐々に微生物検査の重要性が保険点数に反映されているように感じています。

(中島)ありがとうございます。

プロフィール:大沼 健一郎
神戸大学医学部附属病院検査部 臨床検査技師


2019年、神戸大学大学院 医学研究科 内科学系専攻博士課程修了(学位:医学(博士))。
薬剤耐性遺伝子検出法、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌スクリーニング法の検討など、臨床微生物学分野の診療や研究に従事。

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