【論文/抗菌薬】VAP患者に対する初期抗菌薬選択におけるグラム染色の臨床的意義

  • 英文タイトル
    • Effect of Gram Stain-Guided Initial Antibiotic Therapy on Clinical Response in Patients With Ventilator-Associated Pneumonia: The GRACE-VAP Randomized Clinical Trial(人工呼吸器関連肺炎患者におけるグラム染色を指標とした初期抗生物質治療が臨床効果に及ぼす影響:GRACE-VAPランダム化臨床試験)
  • 雑誌名:JAMA Network Open
  • 著者:Jumpei Yoshimura et al.
  • 掲載年月:2022年4月
  • URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35394515/
  • DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2022.6136

Executive Summary

  • 背景・目的:
    • グラム染色は、細菌感染症の起因菌の検出を行う際に一般的に用いられる検査法であるが、集中治療室(ICU)において初期に投与すべき狭域の抗菌薬の選択にグラム染色がどのような影響を与えるかについては未だ検討されていない。そこで本研究では、人工呼吸器関連肺炎(VAP)患者において、グラム染色に基づく狭域抗菌薬治療と、ガイドラインに基づく広域抗菌薬治療の臨床効果を比較することを目的とする。
  • 手法:
    • 本研究では、以下の条件で多施設共同非盲検ランダム化臨床試験を実施した。
      • 期間:2018年4月1日〜2020年5月31日
      • 地域:日本国内の12の三次医療機関のICU
      • 対象患者:VAPと診断され臨床肺感染症スコアが5以上の15歳以上の患者
      • 具体的な手法:患者に対する治療をグラム染色ガイドによる抗菌薬治療または、ガイドラインに基づく抗菌薬治療(2016年米国感染症学会および米国胸部学会のVAPに関する臨床実践ガイドラインに基づく)にランダムに割り付けた。
        • 主要アウトカム:臨床奏効率(14日以内に抗菌薬治療完了、X線検査所見の改善または無増悪、肺炎の徴候・症状の消失、抗菌薬再投与がないことと定義した)
        • 副次的アウトカム:初期治療としての抗菌薬と抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)薬の割合、28日死亡率、ICU非在室日数、人工呼吸器未使用日数、および副作用
  • 結果:
    • 合計206名の患者(年齢中央値:69歳、男性141名[68.4%])が、グラム染色ガイド群(n = 103)またはガイドラインベース群(n = 103)に割り付けられた。臨床的奏効は、グラム染色ガイド群 79 例(76.7%)とガイドラインベース群 74 例(71.8%)に認められた。グラム染色ガイド群はガイドラインベース群に比べて、 抗緑膿菌薬の使用は30.1% (95%CI 21.5~39.9%) 、 抗MRSA薬の使用は38.8% (95%CI 29.4~48.9%) 少なかった。28 日間の累積死亡率は、グラム染色ガイド実施群 13.6%(n = 14)に対し、ガイドラインベース群 17.5%(n = 18)であった。培養結果に応じた抗菌薬のエスカレーションは、グラム染色ガイド群で7例(6.8%)、ガイドラインベース群で1例(1.0%)に実施された。
    • ICU 非在室日数、人工呼吸器未使用日数、副作用発生率に群間有意差はなかった。
  • 考察
    • 主要アウトカムより、VAP患者に対するグラム染色による抗菌薬制限療法は、ガイドラインに基づく広域抗菌薬療法と比較して、臨床効果率が劣らなかったといえる。副次的アウトカムより、VAP患者に対するグラム染色による抗菌薬制限療法が有害な影響を与えることなく、広域な抗菌薬の使用を有意に制限したことがわかった。
    • 抗菌薬の選択を最適化し、不必要な抗菌薬投与を最小限に抑えるための主要なアプローチ法として、分子レベルのPOC(ポイント・オブ・ケア)検査がある。この検査の有効性を評価するためにいくつかのランダム化臨床試験が実施されているが、その結果は相反するものである上[ⅰ]、高価で精密な測定機器を必要とし、すべての医療施設がそのような高価な機器を導入できるわけではない。一方、本研究より、日常的な感染症管理として古くから行われているグラム染色法を用いたGRACE-VAP試験の結果は納得のいくものであることが明らかとなり、世界の抗生物質選択戦略を変える可能性を持っていると考えられる。

 

[ⅰ]Shengchen D et al. Evaluation of a molecular point-of-care testing for viral and atypical pathogens on intravenous antibiotic duration in hospitalized adults with lower respiratory tract infection: a randomized clinical trial. Clin Microbiol Infect. 2019;25(11):1415-1421.

Brendish NJ et al. Routine molecular point-of-care testing for respiratory viruses in adults presenting to hospital with acute respiratory illness (ResPOC): a pragmatic, open-label, randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 2017;5(5):401-411.

Oosterheert JJ et al. Impact of rapid detection of viral and atypical bacterial pathogens by real-time polymerase chain reaction for patients with lower respiratory tract infection. Clin Infect Dis. 2005;41(10):1438-1444.

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