【ホワイトペーパー/ワンヘルス】動物の薬剤耐性に対するアメリカの対策

はじめに
アメリカでの薬剤耐性対策を家畜・愛玩動物ごとに紹介します。薬剤監視体制は特に愛玩動物領域本格化しており、動物への抗菌薬使用規制もより厳しい規制が適用されています。

1.家畜由来の薬剤耐性菌に対するアメリカの対策

〈National Animal Health Laboratory Network〉 
 2018年1月に、National Animal Health Laboratory Network(NAHLN)は家畜(牛、豚、家禽、馬)の薬剤耐性菌を監視するNAHLN Antimicrobial Resistance Pilot Projectを開始しました。このプロジェクトは、2015年に米国大統領より発表された薬剤耐性菌に対する国家行動計画 Combatting Antibiotic Resistant Bacteria(CARB)に沿い、米国中の動物病院や診断研究所で日常的に分離される病原体の薬剤耐性監視を目的として実施されています。収集したデータを元に、薬剤耐性菌発生の傾向や抗菌薬の長期使用による影響について1年ごとに報告書を発表しています。[i]

〈National Antimicrobial Resistance Monitoring System for Enteric Bacteria〉
 家畜由来の薬剤耐性菌に特化した監視体制としては、National Antimicrobial Resistance Monitoring System for Enteric Bacteria (NARMS)が1996年から実施されています。NARMSでは、Centers for Disease Control and Prevention (CDC)、U.S. Food and Drug Administration(FDA)、United States Department of Agriculture (USDA)からそれぞれ提供されたヒトのサンプル、食肉、家畜のサンプルを用いて、サルモネラやカンピロバクター、大腸菌などの細菌における薬剤耐性を調査しています。調査結果はヒト・食肉・家畜のデータを統合した形で毎年報告書として公表されています。[ii]

〈Veterinary Feed Directive(VFD)制度〉
 また、家畜への抗菌薬使用における規制について、日本では「抗菌性物質を飼料へ添加するもののうち、目的が治療である場合は動物用医薬品、飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進(成長促進など)の場合は抗飼料添加物」として分類される一方、アメリカでは目的に関わらず抗菌性物質を含む飼料はMedicated feed (医療用飼料) として分類されます。1993年に導入されたVeterinary Feed Directive(VFD)制度では、ヒト医療上重要な抗菌薬をVFD薬として規定しました。VFD薬に規定された抗菌薬は、獣医師の診療を受けた上で、獣医師から発行された指示書を提出する必要があります。VFDの指示書は2年間の保管義務があり、指示書の原本は飼料販売業者、写しの一部は獣医師、残りの一部は農家に発行されます。[iii]

2.愛玩動物由来の薬剤耐性菌に対するアメリカの対策 

〈National Animal Health Laboratory Network〉
 こちらは家畜動物と同様の監視システムであり、愛玩動物(犬、猫)の薬剤耐性菌を監視するNAHLN Antimicrobial Resistance Pilot Projectが開始されています。家畜領域と同様、収集したデータを元に、薬剤耐性菌発生の傾向や抗菌薬の長期使用による影響について1年ごとに報告書を発表しています。[i]

〈Veterinary Laboratory Investigation and Response Network〉
 他の対策として、Food and Drug Administration (FDA) で行われているVeterinary Laboratory Investigation and Response Network (Vet-LIRN) というシステムがあります。
主にイヌを中心にデータを収集していますが、その他の動物に対しても取り組みを進めていると思われます。
 Vet-LIRNはNAHLNと同様、CARBの一環として2017年より開始され、Source Labs(図1)と呼ばれる30か所の研究所(うち5か所はカナダ)で分離株収集と薬剤耐性試験、 Whole-genome sequencing(WGS)Labsと呼ばれる6か所の研究所でゲノム配列の解析を、それぞれ行っています。収集したデータはNAHLN及びNARMSと提携し、Animal Pathogen AMR Dataとして家畜領域と統合して報告されており、また、ゲノム配列の解析データはNational Center for Biotechnology Information (NCBI)にも提出されます。2021年1月時点で、約12,800件の薬剤耐性試験データを収集し、約4,000件のゲノム配列を決定しています。[iv]

図1:Geographic distribution and organization of Vet-LIRN WGS and Source laboratories Veterinary Laboratory Investigation and Response Network | FDA

 〈VFD制度〉
 愛玩動物への抗菌薬使用における規制については、家畜と同様にVFD薬が規定されています。飼い主は獣医に許可証をもらわないと薬局で抗菌薬を処方してもらうことができないようになっています。[iii]

まとめ
 以上、アメリカの家畜および愛玩動物における薬剤耐性対策について紹介しました。日本と比較して、畜産や愛玩動物の薬剤耐性菌の監視システムが充実していることが推測されました。また畜産業を営む人や愛玩動物の飼い主も、動物を通じて抗菌薬や薬剤耐性菌に対して意識、および関心が高くなる環境にあると考えられます。

[i]United States Department of Agriculture 「Antimicrobial Resistance (AMR) Dashboard」
[ii]Centers for Disease Control and Prevention 「About NARMS」
[iii]American Veterinary Medical Association 「Veterinary Feed Directive (VFD) Basics 」
[iv]Food and Drug Administration 「Veterinary Laboratory Investigation and Response Network」

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