PJI治療方針決定におけるグラム染色の有用性
高齢化に伴う人工関節手術の増加により、診断・治療に難渋する人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection: PJI)の克服は重要な課題です。2018年のInternational Consensus Meeting Musculoskeletal Infection(ICM)のPJIの診断基準ではグラム染色の結果は含まれておりません [1]。しかし、PJIの治療方針決定においてグラム染色の結果は非常に重要であり、特に急性発症例においては施行すべき検査です。一般にPJIは発症から6週間未満の急性例と6週間以上経過した慢性例とで治療方針が異なります。急性発症のPJIでは洗浄、デブリドマンと交換可能なパーツのみ交換し、固定されたインプラントを温存する(Debridement, antibiotics, and implant retention: DAIR)を考慮することができますが、慢性発症PJIでのDAIRは治療失敗率が高いためインプラントを交換する再置換術が推奨されます。しかし、急性発症に対するDAIRの成功率は報告によって幅があり、原因菌がStaphylococcus aureus,Enterococcus属であることは治療失敗のリスク因子とされます [1]。そのため、術前のグラム染色結果が治療方針の決定に有効であり、特にグラム陽性球菌であればDAIRの治療失敗率が高いため、DAIRを可及的な範囲にとどめて再置換術の選択をするなどグラム染色が有用な診断ツールと報告されています[2]。感染症の早期においては時間的な猶予が少ない場合が多く、早期に治療方針決定に役立つグラム染色は必ず施行すべき検査と言えます。
PJI診断に関するグラム染色の精度
ICM 2018の診断基準にグラム染色が含まれていないように、PJIの診断においてはグラム染色の感度が低いことが報告されています。単一施設において、人工膝関節全置換術の再手術時に実施した347件のグラム染色結果を、術中所見および組織学的評価に基づく最終診断と比較検討した研究では、グラム染色を用いたPJIの検出感度はわずか7%、特異度99%、陽性・陰性的中率はそれぞれ92%・57%だったと報告されています[3]。グラム染色陽性であればPJIの診断は疑いようがありませんが、グラム染色陰性の症例は多く、診断においてはCRPや白血球数、培養検査、術中所見などを基に総合的に判断する必要があります。
参考文献
[1] International Consensus Meeting (ICM). Hip & Knee. https://icmphilly.com/hip-knee/ (accessed on 2023-03-17)
[2] Wouthuyzen-Bakker M, Shohat N, Sebillotte M, Arvieux C, Parvizi J, Soriano A. Is Gram staining still useful in prosthetic joint infections? J Bone Jt Infect. 2019 Jan 29;4(2):56-59. doi: 10.7150/jbji.31312. PMID: 31011508; PMCID: PMC6470656.
[3] Zywiel MG, Stroh DA, Johnson AJ, Marker DR, Mont MA. Gram stains have limited application in the diagnosis of infected total knee arthroplasty. Int J Infect Dis. 2011;15(10):e702-e705. doi:10.1016/j.ijid.2011.05.015