今回は、当直中に起こった実際の症例について見ていきたいと思います。
症例:62歳男性
主訴:咳嗽、発熱、呼吸困難
基礎疾患:多発性骨髄腫
CDTR-PR内服中。痰はMiller & Jones の分類 P3(膿性部分2/3以上)。
以下の写真はその時のスメアになります。
菌以外の背景も観察できることが望ましいです。
解説:
画像より、グラム陽性の双球菌で莢膜のようなものも認められることから、肺炎球菌であると推測できます。加えて、白血球と重なっているように見えるものは貪食です。左下のものが分かり易いと思いますが、白血球の核より下方(下の位相)に見えるかと思います。核は標本の表面方向に盛り上がって立体的に見えています。菌はそれより奥に見えると思います。右上の方は核と同じ位相に見えると思います。
内服の抗菌薬が投与されていた影響についてですが、CDTR内服に関わらず肺炎になっているので耐性菌の可能性があります。特にpbp2x変異株の可能性が高いので、病気の進行度によるとは思いますがCTRXやCTXも注意しなければなりません。菌によってはやや延伸しているものもありますので抗菌作用はあるのではないかと考えられます。
グラム陽性菌を見分けるコツについては、今回に関しては非常に良質な痰であるため、このように常在菌が混合していないことがポイントになります。通常は、いかにして良質の痰を採取するかにあります。またこのスライドはGeckler分類の5になります(顕微鏡評価)ので問題はありませんが、1から3までの範囲内に含まれている場合は、判断が難しくなります。痰の取り方が重要となってきますが、常在菌を減らすには喀痰の洗浄をすることによって表面に存在する常在菌を落とすことが望ましいです。
また、尿中抗原検査に関しては、血液ガスやレントゲン所見も総合的に見ると、治療方針には影響しないものと考えられます。当院でも指導や教育はしていますが、尿中抗原検査は初期においては偽陰性になることが多く、今回の事例でも検査を実施していれば陰性になった可能性もあります。時々、「血液培養で肺炎球菌が出たのに尿中抗原検査は陰性になるのはおかしいのではないか?」と仰る先生もいらっしゃいますが、その場合は偽陰性になり易い旨を説明していきます。ここでもやはりコミュニケーションが大事であることを痛感します。
※山本剛先生:「グラム染色道場」ブログの本文はこちら