【KOLインタビュー】大路剛氏(神戸大学)~感染症のプロになるまで~ #1

(カーブジェン有泉(以下、有泉))本日はよろしくお願いいたします。現在は神戸大学医学部附属病院にて感染症科の専門医として従事されていますが、キャリアの最初では神戸大学のバイオシグナル研究センターにて研究されていたと伺っています。これまでのご経歴を教えていただいてもよろしいでしょうか。

(大路)はい、まず神戸大学医学部に進学した理由の一つとして基礎研究でやりたい事があったということがあります。その一環として細胞内signal pathwayの研究をしたかったということがありました。一方で、学部時代は寄生虫、特にhelminth(蠕虫)にも興味があって、当時の神戸大学医学部医動物学教室の松村教授、斎藤あつ子先生や宇賀先生の指導を受けながらフィールドワークをさせていただくこともありました。

(カーブジェン中島(以下、中島))寄生虫と聞くと、メジャーなところではマラリア原虫などいくつか種類があると思うのですが、蠕虫にご興味を持ったのはどういった理由だったのでしょうか。

(大路)日本は蠕虫王国というくらいに、蠕虫が多く存在していることが理由にあったように感じます。例えば肝蛭の生活環などは学生時代の定期試験にも出題されましたが、これは乳牛や肉牛に寄生すると牛の体重が減ってしまいます。現在でも酪農家の方は肝蛭対策に敏感だったりします。こういったところは大学生時代に授業を聞いていても面白いなあと感じていました。

大学卒業後の話に戻ると、大学病院での初期研修のあと、鐘紡記念病院にて消化器内科研修を受け、医師として働きつつ、神戸大学大学院医学研究科に入学しました。その後、神戸大学バイオシグナル研究センターでmTOR pathway周辺のシグナル伝達の研究をしていました。そこではDNAワークやウェスタンブロットなどに没頭する毎日でした。iPS細胞で有名な山中伸弥先生が当時奈良県立医科大学にいらっしゃったのですが、修士の先輩がそちらにいかれており、いろいろラボ生活を教えてくださったりしておりハードなラボはハードなのだなあと感じたことも覚えています。その後は基礎研究者としてキャリアを積みつつアメリカに留学することを考えていたのですが、当時のラボのボスが突然諸事情でやめてしまいラボがなくなってしまったので、その後のキャリアを考える必要が出てきました。

(有泉)なるほど、考える時間もなくラボがなくなってしまったのですね。

(大路)そうなのです。なので、消化器内科の臨床医に戻ることも考えたのですが、もともと寄生虫の研究に興味があったことや、消化器内科の臨床医をやっていた頃に青木眞先生の「感染症レジデントのための感染症診療マニュアル」を読み感染症を体系的に理解できるようにしたいと感化されたこともあり、千葉の亀田総合病院総合診療・感染症科にお世話になることにしました。亀田総合病院では、通常のグラム染色では判別できない細菌感染症であるリケッチア症などの地域特有の感染症診療、感染症コンサルテーション業務や検査部での業務など多くを勉強させていただきました。

(中島)そういった背景だったのですね。ご経歴を拝見すると、亀田総合病院にいらっしゃる間にペルーに留学もされていたかと思うのですが、その時のお話もお伺いしてよろしいでしょうか。

(大路)はい。感染症のAcademic degreeを増やそうと思い、DTMH(Diploma in Tropical Medicine and Hygiene)を取得するためにペルーのCayetano大学に3か月ほど留学していました。国内にロンドン大学やマヒドン大学のDTMH保有者は多いのですが、ペルーの大学のDTMHを持っている方は当時日本にはいなかったので、差別化を図るために取得することを考えていました。単にペルーに短期間でも住みたかったというのもあります。

(中島)すごいですね。今でも持っているのは大路先生だけですか。

(大路)いえ、今は国内には他の方でも保有されています。結構、卒業生のいる施設からは通りやすいといったことはあるので亀田総合病院からは引き続き複数の方が留学されておられます。

(有泉)ちなみに、Cayetano大学ではどういった講義を受けられたのでしょうか。

(大路)前述のように様々な国のDTMH取得プログラムがあり、それぞれ特徴があります。特にペルーに留学した背景として、日本やアジアで実際の患者を診ることが難しい珍しいケースをベッドサイドで直接診られるということが大きな理由です。例えば、イギリスやタイでは実際の患者さんを診ることが難しい、リーシュマニア症やアメリカトリパノソーマ症など南米特有の原虫疾患の症例を経験することができます。また、授業自体はリマで受けて、高地医療も含めたクスコでの授業では、その地域特有の疾患も診ることができました。試験を受けた後にイキトス(アマゾン川流域の町)の実習と授業があるのですが、合間にアマゾン川に行くこともできました。ピンクのイルカを見られたのはいい思い出ですね。

(中島)全く未知の世界で、聞いていてとても面白いですね。ありがとうございます。先生はその後日本に帰られて10年以上感染症の臨床医として最前線で働かれていると思うのですが、ペルーでの留学が役に立っているなと思うところはございますか。

(大路)やはり渡航に関連する外来の患者さんに対する診察の視野が非常に広がったように思います。原虫、寄生虫をはじめとした珍しい感染症に対する診療フローが頭にあるのは強みかなと思っています。

(中島)ありがとうございました。

■本連載は全3回です。

■第2回インタビュー(薬剤耐性問題に向けた取り組み#2)はこちら

■第3回インタビュー(細菌感染症の現場で今後求められること#3)はこちら

プロフィール:大路 剛

神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野(感染症内科)准教授
兼 神戸大学都市安全研究センター准教授
兼 神戸大学医学部附属病院臨床検査部副部長
兼 神戸大学医学部附属病院国際診療部副部長


1998年神戸大学医学部卒業。神戸大学医学部老年科から、鐘紡記念病院で消化器内科研修を行ったあと、その後、神戸大学バイオシグナル研究センターにてmTOR pathway周辺のシグナル伝達の研究に従事。神戸大学大学院医学系研究科単位取得退学後、博士(医学)取得。突然の研究室の解散に伴い、消化器内科から学生時代からフィールドワークを行っていた蠕虫に関われそうな臨床感染症に転科。千葉県外房の亀田総合病院総合診療・感染症内科にて感染症後期研修、ペルーのCayetano(カエタノ)大学におけるGORGAS Diplomaコースに留学し(3ヶ月)、卒業。亀田総合病院総合診療・感染症科医長を経て2009年7月より関西に異動。神戸大学医学部附属病院感染症内科・都市安全研究センターにて助教、講師を経て現職。

関連記事

  1. 【KOLインタビュー】山本剛氏(大阪大学)〜微生物検査の観点から見た薬…

  2. 【KOLインタビュー】山本剛氏(大阪大学)〜微生物検査現場におけるリア…

  3. 【KOLインタビュー】米国のAMRに向けたアクション〜#3

  4. 【KOLインタビュー】大沼 健一郎氏(神戸大学)〜薬剤耐性問題解決に向…

  5. 【KOLインタビュー】救命救急領域におけるAMR対策〜#2

  6. 【KOLインタビュー】米国で救急救命の専門医になるまで〜#1

  7. 【KOLインタビュー】山本剛氏(大阪大学)〜「グラム染色道場」を始めた…

  8. 【KOLインタビュー】大沼 健一郎氏(神戸大学)〜薬剤耐性問題と臨床現…