【ホワイトペーパー】グラム染色とは~染色方法、臨床的意義まで~

1.イントロダクション

近年、新規抗菌薬の創出は減少傾向[i]であるのに対し、抗菌薬の不適正使用によって耐性菌の出現率が増加しています。このままでは、治療薬のない細菌感染症の増加が懸念され、厚生労働省の「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」[ii]をはじめ、抗菌薬の適正使用が強く求められています。

臨床現場において、適切な抗菌薬選択のために欠かせない検査にグラム染色検査があります。

グラム染色検査は、迅速かつ安価に起因菌の推定が実施可能であり、病院のみならずクリニックでの効果も報告されています。[iii]

本ホワイトペーパーでは、グラム染色の詳細や治療上の意義について解説します。


[i]CARB-Xホームページ 「Global Threat」

[ii] 厚生労働省「薬剤耐性(AMR)アクションプラン」

[iii] 前田ら.耳鼻咽喉科診療所でのグラム染色検査によってもたらされた抗菌薬の選択・使用の変化:予備的検討日本プライマリ・ケア連合学会誌 2015; 38: 335-9.

2.グラム染色とは

グラム染色は、細胞壁の違いによる染色の違い(陽性菌は紫色、陰性菌は赤色)と細菌の形態(球菌と桿菌)から、「グラム陽性球菌」「グラム陽性桿菌」「グラム陰性球菌」「グラム陰性桿菌」に起因菌を分類できる染色法です。

手順(ハッカー変法)は以下の通りで、迅速かつ安価に起因菌を推定することができます

1)塗抹、乾燥
2)固定:メタノール固定の場合、1分
3)クリスタルバイオレット:30秒
4)水洗
5)ヨウ素液:30秒
6)水洗
7)脱色
8)後染色:サフラニンの場合、30秒

染色結果からは主に以下の臨床上重要な菌種が推定可能です。

グラム陽性

グラム陰性

(出典:『Medical Technology 11月号』(医歯薬出版)、『感染症 最新の治療2019-2021』(南江堂)、『ドクターこばどんの感染症道場』(三輪書店)をもとに当社作成)

3.グラム染色の治療上の有用性

A 適切な治療薬選択

グラム染色が感染症治療の治療薬選択に与える効果には、①効果のない抗菌薬投与の回避、②早期からの狭域抗菌薬投与、があります。

【①効果のない抗菌薬投与の回避について】

感染症の病原微生物には、細菌、ウイルス、真菌が挙げられますが、抗菌薬が有効な症例は病原微生物が細菌の場合のみです。かぜ症状群の原因微生物は80~90%がウイルスといわれている[ⅳ]ことからも、抗菌薬の使用が適切な症例であるかの判断は極めて重要です。しかし、グラム染色を行わず病原微生物が不明な状況では、抗菌薬がとりあえず処方されるケースがあります。これは、副作用の発症や不要な医療費の発生など患者さんの不利益につながります。

病原微生物の推定により、こうした不適切な抗菌薬の使用を削減が可能となるのはグラム染色の大きなメリットの一つです。

【②早期からの狭域抗菌薬投与について】

グラム染色を行わない場合、培養検査の結果が出るまでには数日かかるため、考えうる起因菌全てをカバーする広域抗菌薬を行わざるを得ません。過度な広域抗菌薬の使用は、薬剤耐性菌の発生につながり、治療薬のない感染症が将来的に起こりかねません。

グラム染色により起因菌が推定されると、その菌にピンポイントで効く狭域抗菌薬の選択が可能となります。

現在の日本の抗菌薬の内訳を欧州と比較すると[ⅴ]、狭域抗菌薬とされるペニシリン系の割合が低いことがわかります。日本において狭域抗菌薬の使用促進は喫緊の課題と言えるでしょう。

B 抗菌薬の有効性の確認

抗菌薬の効果は、グラム染色所見の経時的変化で確認することができます。抗菌薬の効果がある場合は、投与前と比較して起因菌の量が減るため、投与開始後に発熱などが続く場合であっても治療継続の判断をすることが可能です。

C 患者への治療根拠の提示、患者教育

「抗菌薬意識調査レポート2021」[ⅵ]によると、対象を無作為にアンケートを取ったところ、「抗菌薬・抗生物質はウイルスをやっつける」に「あてはまる」と答えた人は全体の59.4%であり、抗菌薬が正しく認知されているとは言い難い状況です。グラム染色により病原微生物を推定し、治療根拠として患者に説明することで、抗菌薬使用に対する患者さんの理解向上につながります。


[ⅳ]日本呼吸器学会ホームページ「かぜ症候群」

[ⅴ]AMR臨床リファレンスセンター(厚生労働省委託事業)「欧州各国と比較した日本の抗菌薬使用量 2019, 2020」

[ⅵ]AMR臨床リファレンスセンター(厚生労働省委託事業)「抗菌薬意識調査レポート2021」

4.現行の課題

WHOは、抗菌薬適正使用の指標として推奨しているAWaRe分類において、耐性化の懸念が少ないとされる「Access」(一般的な感染症の第一選択薬、または第二選択薬として用いられる耐性化の懸念の少ない抗菌薬で、すべての国が高品質かつ手頃な価格で、広く利用出来るようにすべき抗菌薬)の抗菌薬使用を、全抗菌薬に対して60%以上にするという目標値を示しています。しかし、「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2020」(厚生労働省)によると、日本のAccessの占める割合は20%程度であり、抗菌薬が適切に使用されていると言えません。

現在、迅速かつ安価にAccessを使用する治療根拠を示せる検査はグラム染色だけですが、日本の不適切な抗菌薬使用状況を見る限り、グラム染色の実施が十分されているとは言えません。

日本のクリニックでグラム染色を導入したところ、広域抗菌薬の使用が 3 分の 1 以下に減り、小児副鼻腔炎患者における抗菌薬不使用患者数が 9 倍に増加したとの報告[iii]もあり、病院、クリニック問わず、グラム染色の実施を増やすことで、不要な抗菌薬使用や広域抗菌薬の使用を減らすことができると考えられます。

このように、臨床現場におけるグラム染色の普及を促進していくことが、AMR対策に極めて重要と考えられます。

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