【KOLインタビュー】山本剛氏(大阪大学)〜「グラム染色道場」を始めた経緯〜#1

(カーブジェン中島(以下、中島))今回はインタビューをご快諾いただきありがとうございます。

弊社はグラム染色画像から、画像認識AIを用いて菌種を推定するシステムを開発しておりますが、その開発の過程でグラム染色を読むことの難しさを医師・臨床検査技師の先生から伺ってきましたところ、ブログ「グラム染色道場」は非常にためになるとの声を多くお聞きました。
なので、本日グラム染色道場を運営しておられる山本先生とお話しでき大変嬉しく感じております。先生はブログ「グラム染色道場」を2007年から開設されていますが、どういった経緯・想いで始められたのか、教えていただけますでしょうか。

(山本)当時は西神戸医療センター(現神戸市立西神戸医療センター)で臨床検査技術部の細菌検査室で1人の微生物検査技師として働いていました。

西神戸医療センターは感染症診療を専門でする医師がいなかったため、最初は細菌検査の結果を報告する上で、臨床検査技師という立場で、感染症診断・治療に役立つ情報を添えて医師に報告する機会が多くありました。

ちょうどインターネットも普及が進み、現在奈良県立医科大学感染症センターの笠原敬教授の「ID Conference」という感染症に特化したブログを良く参照しておりました。その後、笠原教授とは親交を深め、交信している中で、自身もブログを始めて微生物検査に関する情報発信してみようと勧めて頂いたのがきっかけです。つまらない話ですが、最初にブログの名前はどうしようかと悩んでいたところ、朝のトイレ休憩中に「グラム染色道場」という斬新な名前を思いつきました。

(中島)非常に語呂もいいですし、内容とマッチしているので、僭越ながらブログタイトルは素晴らしいですよね。

(山本)以前からネーミングには8文字以内が良いと伺っていたので、8文字以内に収めました。
また、カタカナと漢字が混ざっており読みやすく、我ながら今回命名した「グラム染色道場」という語呂は良かったと感じています。

(中島)臨床検査技師の間では非常に有名なブログと伺っています。

(山本)これは非常にありがたいことです。改めて色々な方に感謝しなければなりません。
私も耳にしますが、感染症診療に関わる医師や臨床検査技師の中では認知度は高いと聞いております。しかし、ブログには私の名前はでて居ないので、どちらかというとブログの名前が独り歩きしており、私が主催していることを知ると驚かれることも多々経験しました。

(中島)そうなのですね。一方でこのブログは非常に好評で書籍化もされています。その当時の背景も教えていただけますと幸いです。

(山本)今回、出版にお手伝いして頂いた日本維持新報社の宮川様という方がいらっしゃいます。医療関係のお仕事をされている方ではなく、グラム染色に詳しい方ではないのですが、グラム染色道場の記事が目に止まり、全部通読されたたようで、大変興味深い記事が多く、是非書籍化しましょうとご提案して頂いたのがきっかけです。
書籍「グラム染色道場」は、宮川様が800ほどあるブログ記事から面白いと思った記事をピックアップして頂きました。

(中島)素人の方をも引き込む魅力があるのはわかる気がします。少しお話を戻させていただいて、ブログに関する思い出があれば教えていただけますでしょうか。

(山本)ブログを始めた理由として、今までにグラム染色所見を用いた感染症診断・治療に関する診療支援については具体的なものがなく、自らが経験した症例を少し模倣して架空症例をし、医学的根拠も添えながら自分の考えを紹介してきました。
実はその自分の考え方が、自施設だけでしか完結しないものか、または広く国内で使えるものか不明瞭であったため、ディスカッションする場を提供したいという意図がありました。

ブログ開設当時は、まだグラム染色は、肺炎球菌のような教科書にも記載されているような臨床的意義の高い推定菌を判断することが多かったのですが、白血球やフィブリンなどの微生物以外の臨床的意義付けや、抗菌薬の選択・変更に繋がる所見を総合的に考えることが必要と考えていました。
感染症であるのかないのか、感染症であればどういった微生物が関与しているのかが培養結果を待たなくても考え始めることができるのが大切と感じていました。

そのため、当時はグラム染色像と患者の臨床症状から疾患を断定するような表現は、各方面からご意見を頂きました。怒られたことも記憶に残っています。ただ、現在ではグラム染色像から疾患を判断するということが当たり前になってきているので、自分の考え方がブログを通じて拡散されたことは、続けてきて良かったと思います。
また、臨床現場で迷ったり、考え方に行き詰まりを感じたりした時に、ネット検索すると本ブログの記事が出てくると仰って頂く感染症医や微生物検査技師の方々が多く、さらにはアクセス元を見ていると国外から訪問されている方も居り、本当に続けていてよかったなと感じています。

(中島)未開拓な内容でありつつも続けられていたのは素晴らしいです。15年ほど続けられていて、大変だった、苦労されたことはございますか。

(山本)開始した当時は家にインターネット回線がなく、週末になるとネットカフェへ赴いて、1週間分の記事を書き溜めることをやっていました。
また、今でも名前掲載していないのですが、身バレもしたくなかったので、学会等のイベントで私が活動している時間にブログを更新するという小細工で、あたかも私が運営していないことを装っていました。皆さんは、うすうす私が執筆していることに気づき始めていたようですが、身バレを最小限に抑えることができました。

(カーブジェン有泉)ばれないよう、アリバイを作っていたのですね。

(山本)そうなのです。うまくアップデートする時間を調整してばれないようにしていました。そのうち公表することにしましたが、日経メディカルといった有名な媒体でも取り上げていただいたあたりから、正式に皆さんに認識されるようになったと思います。

(中島)実名で運営されることで変化はございましたか。実名だと信頼しやすいので、より多くの賛同者の方が増えたりコミュニティが広がったりしたのではないかと推察しますが、いかがでしょうか。

(山本)確かに、自分自身のコミュニティは広がったかもしれないです。Twitterで記事を拡散することがあるのですが、そこで顔の見たことのない知り合いが増えました。
主に感染症をご専門にされている方だとは思うのですが、臨床の現場でわからないことがあれば今でものDMご相談を頂きます。ご相談内容は解説資料を送ったりするもあります。

(中島)山本先生に見ていただけるのは大変頼もしいですね。グラム染色道場は2冊書籍化もされていますが、新作は執筆されているのですか。というのと電子書籍で販売はされていますか。先日Amazonで見た際には、Kindle版はなかったように思います。

(山本)いいえ、新作の続編は出版社の方からご連絡を頂いていないのが現状です。書籍のコンセプトとして、1編15分以内に読み終わること、大きさはハンドバックに収まること、重くない程度のボリュームに抑えること、スマホから電子書籍で閲覧しても写真が分かりやすく表示されることに拘りました。
書籍は購入すると電子版があり、またM2Plusなど最初から電子書籍としてから販売されています。特に臨床検査技師は、女性の比率が高く、女性の方が通勤時間にさっと読めるような配慮をしています。

(中島)そこまで想像して作られていたとは存じ上げませんでした。ありがとうございました。

■本連載は全3回です。

■第2回インタビュー(「グラム染色道場」を始めた経緯#1)はこちら

■第3回インタビュー(微生物検査の観点から見た薬剤耐性(AMR)問題#3)はこちら

プロフィール:山本 剛

大阪大学大学院医学系研究科変革的感染制御システム学寄附講座 寄附講座講師
大阪大学感染症教育研究拠点(CiDER) 大阪大学医学部附属病院感染制御部長


神戸大学大学院医学研究科前期課程修了(感染疫学・感染症分野専攻)。今までに神戸市立西神戸医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2021年2月現職。
臨床検査技師、認定臨床微生物検査技師/ICMT、保健学修士。ブログ「グラム染色道場」を2007年より主催し、その反響を受けこれまでに2冊を書籍化。
グラム染色が菌種はもとより、白血球や滲出物から病態を推測し、治療計画や治療経過などそこから得られる所見を感染症診療に活用することを紹介してきた。

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