【KOLインタビュー】大路剛氏(神戸大学)~薬剤耐性問題に向けた取り組み~ #2

(カーブジェン中島(以下、中島))これまでは先生のご経歴を伺ってきましたが、少し話の観点を変えて、ご専門である感染症のお話をさせていただければと思います。細菌の薬剤耐性(Antimicrobial resistance: AMR)問題は隠れたパンデミックなどと言われており、グローバルで非常に大きな課題として認識されていますが、先生から見て日本のAMR対策はどのように感じておられますか。

(大路)ペルーに行った際、病棟を回っていた所感として、ペルーでは抗菌薬が濫用気味だなと感じました。同級生の米国感染症専門医やカナダのMicrobiologistも同じ印象を受けたと言っていました。また日本の感染症医の印象としてはグラム染色を皆が使いこなせているわけではなく、この点では日本の一部の病院の方がうまく対応できているなと感じました。

(中島)ペルーで抗菌薬が濫用されてしまっていたのは、例えばグラム染色等の教育をきちんと受けていなかったからなのでしょうか。実施した方が良いのは理解しているができないということなのか、そもそも実施した方が良いと知らないということかというと、どちらになりますでしょうか。

(大路)前者かなと感じています。学生の実習で経験はするけど、臨床で使いこなす程度には多くの医師はトレーニングされていないということだと思います。また、ペルーは地理的にもアメリカの影響を受けることが要因としてあったように感じます。アメリカは臨床検査技師しかグラム染色の判断をしてはならず、医師は判断できないのですが、そういった習慣がペルーにも影響を与えていたように感じます。

弊社代表・中島(左)と大路氏(右)

(中島)アメリカでのグラム染色の事情についてお伺いしたいのですが、アメリカでは分業が進んでおり、microbiologyのラボで臨床検査技師はグラム染色を実施し、それを様々な検査を統括するdirectorに報告し、そのdirectorが医師に報告するというフローが普通なのでしょうか。

(大路)はい、米国では分業になっており、比較的規模の大きな病院では病院内の検査ラボが対応し、小さな病院だと臨床検査受託会社に外注しているのだと思います。

(カーブジェン有泉(以下、有泉))ありがとうございます。これまではペルーなどではAMR対策が十分でないというお話でしたが、他にもAMR対策が進んでいない国などはあるのでしょうか。

(大路)身近なアジアだとタイやベトナムは薬剤耐性率が高いと一般に言われていますね。

(有泉)逆にAMR対策が進んでいる国などはあるのでしょうか。

(大路)アイスランド、フィンランド等の北欧は細菌の薬剤耐性率が低いとされています。特にフィンランドは抗菌薬の許可制が厳しいとCOVID-19pandemic前には聞いたことがあります。あとはオランダも耐性率が低いと言われています。ただ、これらの国がなぜ耐性率が低いのかはわからないので、今後より取材等したいなと思っていたところでした。

(中島)そうなのですね。国の抗菌薬使用の制度が厳しいのか、あるいは教育がしっかりしているのか、など色んな可能性がありそうですね。

(大路)そうですね。ゼロコロナではないですが、ゼロ耐性菌はオランダが掲げてやっていたことなので、何かしらの抗菌薬適正使用に関する制度等があったのだとは思います。

(有泉)話は少し変わりますが、日本では、小児のASP加算などで一定の成果が出ており、不必要な抗菌薬処方が減ったという発表もありましたが、この点に関してご意見はございますでしょうか。

(大路)この点について言うと、小児でのASP加算に加えて、救急治療においても抗菌薬を使わないことによる加算もあればいいなと思います。

(中島)現場での感覚として、この抗菌薬は使わないべきであるが、使ってしまっているといった現状もあるのでしょうか。

(大路)ICUにおいてはグラム染色の結果等をもとに集中治療医と抗菌薬の使用を厳密に制御するのが理想ですが、そこまでできている国内の総合病院は多くないと思います。なので、このための制度的なシステム、及び技術的なシステムの両方を米国含めて普及させることができれば、非常に効果はあると考えています。

例えば、酸素化低下と胸部の陰影のみから細菌性肺炎と診断し広域のカルバペネム系の抗菌薬やバンコマイシンを投与している患者がいるとします。投与後に抗菌薬投与前に下気道から採取した喀痰を確認してみると、グラム染色画像では細菌は何も見えていなかった、実は酸素化低下と胸部陰影の原因は心不全であったのではないか?という症例は少なからず経験します。

このような症例においてベッドサイドですぐにグラム染色ができると診断および使用する抗菌薬の選択について非常に有用だと思います。グラム染色の施行の手間自体が問題になっているのであれば、簡易な自動グラム染色装置等は救急集中治療の現場においてはあればよいなと感じます。

前述のように広域抗菌薬の使用は人工吸気関連肺炎の治療においてしばしば見受けられます。その時は回復したとしてもその後再び肺炎を発症した際に、その時の原因菌がすでに非常に厄介な薬剤耐性を持っていることが多いことが集中救急治療における大きな問題です。

(中島)救急集中治療の現場においてもより精度の高い鑑別が必要と感じました。ありがとうございました。

■本連載は全3回です。

■第1回インタビュー(感染症のプロになるまで#1)はこちら

■第3回インタビュー(細菌感染症の現場で今後求められること#3)はこちら

プロフィール:大路 剛

神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野(感染症内科)准教授
兼 神戸大学都市安全研究センター准教授
兼 神戸大学医学部附属病院臨床検査部副部長
兼 神戸大学医学部附属病院国際診療部副部長


1998年神戸大学医学部卒業。神戸大学医学部老年科から、鐘紡記念病院で消化器内科研修を行ったあと、その後、神戸大学バイオシグナル研究センターにてmTOR pathway周辺のシグナル伝達の研究に従事。神戸大学大学院医学系研究科単位取得退学後、博士(医学)取得。突然の研究室の解散に伴い、消化器内科から学生時代からフィールドワークを行っていた蠕虫に関われそうな臨床感染症に転科。千葉県外房の亀田総合病院総合診療・感染症内科にて感染症後期研修、ペルーのCayetano(カエタノ)大学におけるGORGAS Diplomaコースに留学し(3ヶ月)、卒業。亀田総合病院総合診療・感染症科医長を経て2009年7月より関西に異動。神戸大学医学部附属病院感染症内科・都市安全研究センターにて助教、講師を経て現職。

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