【KOLインタビュー】大路剛氏(神戸大学)~細菌感染症の現場で今後求められること~ #3

(カーブジェン有泉(以下、有泉))これまでは先生のご経歴や各国の薬剤耐性(antimicrobial resistance: AMR)問題に対する対応の違いについて伺ってきましたが、最後にAMR関連での医療現場のリアルや今後求められる技術についてお話ができればと思います。
感染症医療現場のリアルということで、困ったこと、驚いたこと等あれば教えていただけないでしょうか。
例えば、いわゆる風邪はほとんどがウイルス性であるため、抗生物質(≒抗菌薬)は効果がないのですが、患者さんの中には風邪であっても抗生物質を処方してほしいという方もいると聞きます。
あるいは、若手の医師は学生実習等でグラム染色を習うものの、現場ではあまり判読できない方が少なくないとも聞いたことがありますが、いかがでしょうか。

(大路)おっしゃる通りです。抗菌薬を求める患者さんは一定数いるので、患者さんへの啓蒙も必要だなと感じます。また、多くの医師にはグラム染色像を読影できる人が少ないということも事実で、教育を推進することも必要です。
また、集中治療の現場では、いつ抗菌薬治療を始めたらいいのか、いつやめたらいいのかが非常に悩ましくて、これらの点については抗菌薬適正使用の観点と原因微生物を外さない抗菌薬治療とのコンセンサスが取りづらいのが現状です。

細菌性肺炎の有無や臓器特異的な治療効果を判断するための、特に良質な喀痰を得やすい挿管患者においては喀痰のグラム染色は強力な武器となります。前述の話ともかぶりますが、救急・集中治療の現場においては、治療を開始するのか否か、良くなっているか否かを判断するための臓器特異的なパラメータが簡単に分かる装置があればよいなと思います。

(カーブジェン中島(以下、中島))臓器特異的な細菌感染症のパラメータを瞬時に特定する装置、というお話がありましたが、他にはどういった技術を今後期待されていますか。
弊社では自動グラム染色装置や画像認識AIによる菌種推定ソフトを開発していますが、自動化できると良いという点は他にはございますでしょうか。

(大路)私個人としては、救急等の発熱を主訴として診断していく中で、感染症の診療プロセスのルートに移行した患者さんであれば、その診断プロセスを自動化できればと考えています。
AMR対策として、不必要な抗菌薬を投与しないという段階を超えて、次に求められるのは、誤った抗菌薬を投与しないということと、いつまで抗菌薬を投与し続けるか、という段階なのかなと考えています。

例えば、今申し上げたように、救急患者さんの初期診療において臓器特異的な細菌感染症の原因微生物を瞬時に推定できるような装置があれば、誤った抗菌薬を投与する確率が低くなると思います。
加えて、その後入院した時に、容易に検体が得られる感染臓器(気管内挿管された肺炎、創部感染の膿、尿路感染症など)であればその検体のグラム染色をして経過を観察することができれば、治療経過の評価が、判断しやすくなるので、有効かもしれないなと考えています。

(中島)入院患者さんが毎日血圧等のバイタルを測定するように、毎日グラム染色を実施できるのが理想で、それを簡便に自動化できれば良いということですよね。

現状では救急治療における患者さんにおける薬剤耐性菌の発生が多い印象でしょうか。

(大路)やはり救急で運ばれてくる患者さんは病歴聴取ができない場合や循環動態・呼吸動態から外れるが多いということもありますし、迅速に抗菌薬を投与する必要があることが多いため、どうしても広域の抗菌薬を使わざるを得ません。

そのまま広域抗菌薬を使用し続けた場合、薬剤耐性菌を生み出すもとになってしまいます。勿論、治療開始後、適切に抗菌薬をde-escalationしていくことで防ぐことは可能です。広域抗菌薬を開始する際にもどこまで広域にするかの判断材料としてグラム染色は重要だと感じます。
また前述のような挿管患者のグラム染色を毎日実施するのは手間になるので、自動化して負担が軽減できれば良いですね。

(中島)当然グラム染色は難しいと思いますが、退院した後はApple watch等のウェアラブルデバイスを使って状況をモニタリングできるといいですね。ありがとうございました。

■本連載は全3回です。

■第2回インタビュー(薬剤耐性問題に向けた取り組み#2)はこちら

■第3回インタビュー(細菌感染症の現場で今後求められること#3)はこちら

プロフィール:大路 剛

神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野(感染症内科)准教授
兼 神戸大学都市安全研究センター准教授
兼 神戸大学医学部附属病院臨床検査部副部長
兼 神戸大学医学部附属病院国際診療部副部長


1998年神戸大学医学部卒業。神戸大学医学部老年科から、鐘紡記念病院で消化器内科研修を行ったあと、その後、神戸大学バイオシグナル研究センターにてmTOR pathway周辺のシグナル伝達の研究に従事。神戸大学大学院医学系研究科単位取得退学後、博士(医学)取得。突然の研究室の解散に伴い、消化器内科から学生時代からフィールドワークを行っていた蠕虫に関われそうな臨床感染症に転科。千葉県外房の亀田総合病院総合診療・感染症内科にて感染症後期研修、ペルーのCayetano(カエタノ)大学におけるGORGAS Diplomaコースに留学し(3ヶ月)、卒業。亀田総合病院総合診療・感染症科医長を経て2009年7月より関西に異動。神戸大学医学部附属病院感染症内科・都市安全研究センターにて助教、講師を経て現職。

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